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ざあざあ、音が鳴ったり。
かと思えば、ぱらぱらと風に乗って窓を叩いてきたり。
大きい雨粒は、冷えた部屋の窓をずっと鳴らし続けてる。
床の上に散らばった雑誌、と、大学の本。
それは元々本棚にあったはずで、でもなんで、こんなとこに散らばっとるんじゃろ。
私は、何故かそこに座り込んでいて、散らかった部屋を見渡してる。
一人…じゃない。
誰かの指先が、本を、拾っていた。
彼女かな。
そう思って、今度はその指を見つめてみる。
女の人の、指。
白くて。すらっとして。細長い。






白くて。すらっとして。細長い。






彼女、じゃない。






…どうして?






ずっと一緒が当たり前だと思っていた。
ずっと側にいてくれるものだと思っていた。
消えてなくならないと思っていた。
消えるはずがないと思っていた。






…ここは今。
夢なんだろうか。






雨。
あの日もそうだった。
冷たい雨。
風があんまり無かったから、傘を差していた私は特別濡れる事はなくて。
でも目の前の、彼女は。
笑顔だった。
けどいつもの無邪気なものなんかじゃなくて、たまに見せる、変な笑い方。
そんな笑い方せんでよ、って言ったら、私の前ではしなくなっていたのに。
またそんな笑い方する。
そう言ったら、彼女はたった一言だけ、ごめん、って言った。
そのへたっぴな笑顔のまま。
傘も差さずに。
濡れたまま。






その光景の間、太陽くらい目が眩む程の光なんて無かったはずなのに。
雨が止んでいく空気を感じ始めた頃には。
彼女がいつの間にか、私の前から消えていた。
笑っていたのに、泣いていた。
そんな瞳を、私に灼き付けて。






…それも、夢だったんだろうか。







私の名前、を、本を拾う指の主が呼んだ気がした。
すらり、とした指を辿って、腕を辿って、顔が見えそうなくらいまで視線を上げていく。
その途中で見えた、髪の束。
肩をとうに越えた、髪の束。
ああ…やっぱり彼女、じゃない。
やっぱり、彼女は、ここにいない。
この部屋の主が、ここにいない。
…どこに行ったの?






「…のっち、は…?」
「あ〜ちゃん…?」
「どこに、おるん」
「あ〜ちゃ」
「どこにおるんよ!!」






どん、と床が鳴る。
じん、と響くように広がる手の痛み。
ぐっと握ったせいで、爪が食い込んで。
冷えた掌に当たる感覚が鈍く痛い。
「何でっ……何でっ!?」
どん、どん、と、揺れる、床。
雑誌の山が、崩れ落ちる。
テーブルの上のペットボトルが、倒れる。
私の体は床を叩く事に夢中になって、前のめりになっていく。
痛みがあるのは夢じゃない証拠。
確かにここは彼女の部屋で。
きっとあの日以来、この部屋の時間は止まっていた。
夢だ、と思いたい。
でもそれは、都合の良い、解釈。






どうして。
どうしてあの日、彼女を追いかけて傘に入れてあげなかったのだろう。
彼女のあの笑顔を捕まえて、もっと怒鳴ってやれなかったのだろう。
彼女の笑えなくなった理由も。
私の前でいなくなった理由も。
私が一番、近くにいたのに。






口から絶え間なく流れる名前、とは違う人の指が、私の頭を撫でる。
優しい手つきで、宥めるみたいに。
…でも違うんだよ。
いつもみたいに優しく撫でられても、それは彼女じゃない。






私が今欲しいのは、もっと不器用な指なんよ。
でもすごく温かい、犬みたいな指なんよ。






あの日と、同じ雨。
それは笑うようにして泣こうとしなかった彼女のもの、なの。
今私の瞳から流れてるみたいな、彼女の。






でも結局、私に応えるのは。
相変わらず単調に窓を叩く、雨の音だけだった。






END









最終更新:2010年05月17日 21:04