「のっち!のっち!」
「ふぇ?」
「もう!早く起きんさいよ〜。今日卒業式じゃろ!!」
「あ!!」

今日は美容師の専門学校の卒業式。
無事、免許も取得し単位も落とさず卒業。
今年の春から見習いとして家から電車で30分かかる美容院に就職。

「あー、やっぱのっちスーツ似合うね〜」
「へ?そう?」
卒業式だから今日は黒のパンツスーツを着用。
クラスの子とかはみんな袴を着るって言ってたけど、あたしはめんどくさいから入学式で着たスーツをそのまま着ることにした。

「うん。三割り増しに魅力アップって感じw」
「なんだそれ?w」
「そうだ!今日何時に帰ってくるん?」
「ん?えっと、、、卒業式のあと、クラスで謝恩会するって言ってたから・・・10時には帰ってこれるかな?」
「わかった。じゃ待ってるね」
「へ?」
「へ?じゃないけぇwあたしものっちの卒業お祝いしたいもん」
「マジで!?だって今日あ〜ちゃんバイトの日じゃなかったっけ?」
「そんなんお休みとったけぇ。当たり前じゃろ?」
「なんかすごい嬉しい。ありがとw」
「ふふ。どーいたしまして。ケーキ買ってまってるけぇ」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
「気をつけてね」
あ〜ちゃんはそう言ってあたしの襟元を直してくれた。

まるで新婚生活みないなやりとり。
ニヤニヤが止まらない。

あたしはニヤニヤしながら卒業式が行われるホテルに到着した。
ロビーには袴を着た女の子達やスーツを着た男の子達が群がってる。




「のっち!!」
「あ!!木村さん!」
高校で同じクラスだった木村さんも実は同じ学校。
人見知りだったあたしは何かと木村さんに助けてもらってばっか。
告白された相手と友達になるって、なんか不思議な感じ。
最初はやっぱりちょっと躊躇したんだけど、木村さんは普通に接してくれるからそれに甘えちゃってた。
それに木村さんは今とってもラブラブな彼氏がいるから、そんな後ろめたさもないし。

「うは。のっちスーツ似合いすぎでしょw」
「それ、あ〜ちゃんにも言われた」
「そりゃー言うよ。あれ?あ〜ちゃんってまだ学生だっけ?」
「うん。この春で二年生ですよ〜」
「あたしも久々にあ〜ちゃんに会いたいよ。てか、あたしのこと覚えてるかな?」
「あはは。大丈夫。ちゃんと覚えてるよ」
実は木村さんと同じトコ通ってるってあ〜ちゃんに伝えたらちょっとご機嫌ななめになっちゃったんだよね。
まー、機嫌損ねるのはわかるよ。
あ〜ちゃんも木村さんがあたしに告白したこと知ってるからね。
て言ってもね、あれから1年以上経ってるし。木村さんにも彼氏いるし。
第一、あたしがあ〜ちゃんラブなの、本人のあ〜ちゃんが一番知ってるくせにね〜。
でもヤキモチやいちゃうあ〜ちゃん嫌いじゃないんだよな〜。

「そういやー、のっちってどこに決まったんだっけ?」
「あれ?言わなかったっけ?あそこの駅前のとこだよ」
「あぁ!そうだったねw忘れてた」
「忘れんなよw木村さんは?」
「あたしはヘアメイクの事務所。芸能人のメイク担当ってやってみたかったんだよ」
「木村さん、めっちゃミーハーだもんねw」
「いいじゃんいいじゃん。そのうち雑誌とかにあたしの名前載る予定だからさw」
「予定かよw」
「のっちも興味あったらおいでよ。事務所の社長さんいい人だよ」
「そーね。考えておくわ」
「てかさ、あんたさっきから時計見すぎ。そんなに帰りたいんかw」
木村さんに注意されるまで全然気がつかなかった。

あたしは終始ソワソワしながら卒業式に参加した。
卒業式も終わりこれからクラスで謝恩会だけど、早く帰りたい。
あ〜ちゃんとケーキが待ってる我が家へ帰りたい。



「ねぇ、木村さん」
「ん?」
「謝恩会って出なきゃダメ?」
「うーん。まぁ、みんな出席だしね。てか、会費も払ってるじゃん」
「やっぱ帰っちゃダメかな?」
「ダメだろ」
「やっぱり?ダメっすか・・・」
「うん。てか、ね?あたしさ、みんなにあんたの見張り番頼まれたんだよね」
「見張り番?なんそれ?」
「あんたがすぐに帰らないようにだよ!」
「は?」
「のっち・・・キミはキミの知らないところでとっても人気者なんだよ」
「はぁ・・・」
「これは高校の時もそうだったけどねw男女問わずみなさん、あんたとお話したんだとよ」
「えぇ!?そうなんすか?」
「そうなんすよ。だから一番仲がいいあたしに見張り番役ってめんどくさい仕事が回ってきたんだよw」
「ごめんね〜。てか、あたしと喋っても会話続かないと思うけどな・・・」
「うん。そうだよね。のっちすぐ噛むし。オチがない話ばっかするし。あ〜ちゃんの話題しかしないし」
「あれ?もしかして、今あたしけなされてる?」
「うん。めっちゃけなしてるw」
「ひどーいw」
「ほら。謝恩会のお店行くよ!」
「わかりやした〜。あ!その前に電話していい?」
「あ〜ちゃんに?」
「しか、いないっしょw」
「はいはい。ノロケは結構ですw」

ホテルの入口を出て静かなところであ〜ちゃんに電話を掛けた。

『のっち?』
『あ!あ〜ちゃん!!』
『卒業式終わったん?』
『うん。終わった!んで、これから謝恩会に顔出してすぐ帰ってくるから!!』
『えー、ゆっくりしとってええのにw』
『なんで?やだよ。だって、謝恩会よりあ〜ちゃんと一緒にいたいもん』
『もーwお友達とかとの付き合いは大丈夫なん?』
『あー大丈夫大丈夫。あたし木村さんしか友達いなからw』
『・・・あぁ。そっか。木村さんも一緒なんよね、、、』
あれ?明らかにあ〜ちゃんの声色が変わったよ。
あら、やだ。これってヤキモチ?なんか、あ〜ちゃん可愛いぞw

『あ〜ちゃん!』
『・・・ん?』
『あたしが愛してるのは、あ〜ちゃんだけだから!!』
『・・・アホ』
『えぇ!?なんでぇ!?』
『、、、早く帰ってきてね』
『うん!!』



「あんたさ・・・すごいね」
「わっ!ビックリした」
あ〜ちゃんとの電話が終わってホテルに戻ろうとしたら、後ろに木村さんが立ってた。

「なにがすごいの?」
「いや〜、電話でも愛してるなんて恥ずかしくて言えないっしょ、普通。お前はフランス人かw」
「フランス人じゃねーよw」
「・・・あんたたちの話聞いてると、たまに羨ましく感じるよw」
「もしかして・・・木村さん彼氏と上手くいってないの?」
「いってるよ。バーカ」
なんか今日はアホとかバカとかよく言われる日だな。

「でもうちのは日本男児だから好きとか愛してるとかなかなか口に出してくれないんだよね」
「そうなんだ」
「愛されてるってわかってるけど、たまに言ってくれないと不安になるんだよね。・・・あ〜女ってめんどくせーw」
「なんか、木村さん可愛いよw」
「はい?」
「乙女の顔になってるw」
「うっせい。・・・ほら、行きな」
「ん?」
「もう鈍いな〜。今のうちに抜け出せよw」
「えっ、いいの?木村さんみんなに怒られない?」
「いいよ。あたしの心配より、愛しのあ〜ちゃんの元に帰りな」
「ありがと!」
「はいはい。どーいたしまして」
「あたし木村さんと友達になれてよかった!じゃね、バイバイ!!」
木村さんと握手してあたしは駅へと向かった。

「わっ!早い」
「でへへ。だたいま〜」
予想以上の早さの帰宅にあ〜ちゃんは驚いてる。

「あ〜ちゃん、好きだよ」
そう言ってあたしはあ〜ちゃんを抱きしめた。
「なん?急に?どしたん?」
あたしの腕の中でクスっと笑うあ〜ちゃん。
「ううん。別になんでもないよ」
「あたしも好きだよ。のっちのこと」
「うん。知ってる」
「知ってても言いたいの!」
プクってぽっぺを膨らますあ〜ちゃんが可愛くて可愛くて、あたしはそれだけで幸せ。

お互いに好きってわかってても、たまにはそれを確認するのも悪くないね。
それに木村さんじゃないけど、あ〜ちゃんを不安にさせたくないし。
まーあんまり言い過ぎると、軽く思われちゃうかもしれないけどw
あたしはフランス人じゃないけど、言える時は愛してるって言おう。

あ〜ちゃん・・・あたしの”愛してる”は逆に不安にさせちゃったみたいだね。気付かなくてごめん。







最終更新:2010年05月17日 21:07