アットウィキロゴ
死ぬほど、熱く。
「それ、ゆかちんの」
「…?」
「ゆかちんの曲」


[024:LOVE]


朝から仕事はいっこうに手につかなくて、いつもはしないようなミスを続け様に三回もして上司に怒られた。
頭はボーッとするし、一瞬でも気を抜いたら涙が出ちゃいそうで、無理に力を入れてたら先輩のデスクにお茶をこぼして嫌味を言われた。


…散々。本当、散々だよ。


ガラス張りの店の外は勢いよく雨が降っていて、店内にいるのにゆかをひどく濡らすようだ。
まるで、馬鹿にしてるみたいに。


…気分が、悪い。


全部、全部…


…誰の、せい?


ねぇ、それでもゆか、
のっちのせいにできないよ。







————————————


「こんなのさ、」
「ん?」
「幸せじゃ、ないよなー」
「…どしたん?」
「いやー、うん。やっぱりさ、」
「うん」
「幸せなほうが、いいじゃん?」
「…気付くの遅いよ」
「ごめん」
「…ねぇ、」
「ん?」
「あの、人、、とは?」
「あぁ、うん。ちゃんと、」
「…」
「ちゃんと綺麗にする」


————————————







————————————


「どしたの急に!って、びしょ濡れじゃん!」
「あの、さ、、
「いいから!入って!服着替え、
「ごめん!」
「え?」
「もう、」
「なに!?風邪ひいちゃうよ?早く、
「もう!…やめ、る」



「…なんで?」
「もう、、やめ、よ」
「……やだ」
「っつ、、…もう、」
「…や、だ」
「もう…、あの時みたいに、好きじゃ、ない」
「なんでそんなこと、
「もう好きじゃない!もう、もう…無理だよ。もう…、、やめよ…」



「なんで!また会えるって言ったじゃん!」
「ごめ、ん」
「まだ好きだって言ったじゃん!」
「…ごめん」
「謝んないでよ!」
「…ごめ、
「うそつき!」
「…」



「抱いた、くせに…」
「っつ、それは!…ごめ、ん」
「…むかつく」
「…ごめん。殴って、いいよ」
「…」
「それで気が済むなら、そうしてほしい」
「…殴りたくなんかないもん」
「うん、ごめん」
「…やだぁ」
「ごめん。のっち、好きな人、できた」
「…」
「嘘。好きだった、ずっと前から。好きな人がいたんだ」
「…うん。わかってた、よ…」
「ごめん」
「…でも!
「忘れて!」
「…そっ、」
「忘れて、ください…」



ガチャ
ばたん



「…無理、だよ…」


————————————






仕事が終わる時間になっても雨はやまず、相変わらずゆかを馬鹿にするかのようにどしゃ降り。
コンビニのビニール傘じゃ頼りなくて、靴のつまさきと肩を濡らしながら帰った。


昨日のっちはデートしよ、って言った。明日デートしよ、って。
確かにのっちがゆかに言った。
けど、朝から今まで何一つ連絡もなくて。
期待してるわけじゃないけど、天気だってこんな調子だし。


暖房を入れた部屋が次第にあたたかくなってゆかを溶かす。
それがあまりにも優しいから、ゆかはまた泣きそうになった。
ゆかの部屋の窓をたたくように雨は降り続ける。


のっちはもう、こないかもしれない。


そんなふうに思った。







—ピンポーン—


泣きだしそうなゆかの脳みそに響いたチャイムの音で我にかえる。
フローリングにべたりと座り込んだゆかがすぐに返事をできないでいると、


—ピンポーン—
ドンドンドン


いつかみたいな乱暴なノックが聞こえてきた。
間違いない。のっちだ。


ゆかは慌てて立ち上がる。
ガチャリとドアを開けると、そこには、


「ちょっ!どしたん!びしょぬ、、きゃっ!」


一瞬にして引きずり込まれたのは、のっちの腕の中だった。
全身びっしょびしょののっちが一瞬見えて、その次の一瞬で見えなくなった。
ゆかの顔のすぐ横に、ずぶ濡れに濡れた髪があって、
雨の、匂いがした。





「ちょっとのっち!どうしたの?びしょ濡れじゃん」
「…」
のっちは何も言わない。


「のっち、のっち!ゆか、濡れちゃう」
「…」
別に濡れたって構わないのに。


「…のっち?風邪、ひいちゃうよ?」
「…」
抱き締めるのっちの腕は、いつもより強くて確かなものだった。


「ちょっと、のっち、、
「だまって」


急に抱き締めてた腕をといてゆかの肩を掴むから、驚いて何も言えなくなる。
ずぶ濡れに濡れた髪が綺麗な顔にはりついて、ゆかは余計にドキドキした。




「のっち、…どうしたの?」
「ゆかちん!」


のっちは穏やかだったけど、その表情は今まで見たことないくらいに真剣で。
ゆかはまたドキドキした。


「なん、ちょっと、のっち。本当冷たい。ずぶ濡れじゃん!風邪ひいちゃうし、とりあえず部屋、
「ちょっとだまって」
「だって、のっちこのままじゃ風邪ひくよ!?ゆかも寒いし、早く、、
「ちょっと、」
「早くシャワー浴びて服着替えんと!ゆかも着替えるから、、、
「ゆかちん、シー」
「シー、じゃなくてね、のっち?本当風邪ひいちゃうから、、、、
「だまって」
「だってのっち、、、、、
「愛してるから!」
「!!」
「だから、、ちょっとだまって?」


八の字に下げた眉毛で優しい顔してのっちは笑った。
また一瞬にして抱き締められて、
その次の瞬間、ゆかの唇に何かが、触れた。


「・・・なんで、こんなこと、するん、、」
「・・・好き、だから?」
「・・・ばか、、」


初めてのキスは、雨の味がした。









最終更新:2010年05月17日 21:12