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あ〜ちゃんの家に着いた時も、ゆかちゃんの対応は実にそつが無かった。
そっとあ〜ちゃんを支えるように肩を抱え、あ〜ちゃんのお母さんにきちんと挨拶をし、てきぱきとあ〜ちゃんのカバンを渡した。
絵に描いたような、「親御さんに安心される、スマートな恋人」って感じ。
あ〜ちゃんのお母さんからのお茶のお誘いに、ゆかちゃんは
「いえ、お構いなく」
と笑顔で優等生的対応をし、あ〜ちゃんに向かって、
「じゃ、あ〜ちゃん、また明日ね♪」
って、にひゃって目を細めて笑った。
あ〜ちゃんは小さく頷いて、ばいばいって手を振った。
ゆかちゃんとずっとつないでいた手を、振った。
あたしは、ぼんやりとただそれを眺めていた。
2人の間に流れてる、言葉のいらない空気を。
きっと明日には、あ〜ちゃんは元気に笑顔を見せる。
「また明日ね」と言ったゆかちゃんに、応える為に。
ゆかちゃん、の為に。
ぼろぼろに弱い部分も、しっかりとゆかちゃんが支えてくれるから。
ゆかちゃん、がいるから。



…あーあ。
あたしはその日何回目かの「…あーあ。」を、重苦しく胸の内に吐き出した。
そっけないくらいぶっきらぼうに、頭をぴょこんと下げて、あ〜ちゃん家の玄関から出た。
なんか、いじけちゃうよなあ。
ゆかちゃんって、何だってこう、ちゃんとしてるんだろう。
何でこんなに、ちゃんとあ〜ちゃんのことが理解ってるんだろう。
ゆかちゃんさえいれば、あ〜ちゃんは大丈夫なのかもしれない。
…のっちなんかいなくても。
あたしの入る隙間なんて、この2人の世界には無いのかも。
あたしはすっかりいじけて、むっつりと押し黙ったまま、のろのろと歩き出した。
何となく手持ち無沙汰に、ポケットに突っ込んだ携帯を取り出そうと少し横を向いた時。
あたしは、ぎくりとした。
隣りであたしと同じように無言で歩いてるゆかちゃんの様子が、何てゆうか、尋常ではなかったんだ。
天から伸びてる糸が、切れたような。今にもバラバラのパーツに崩れ落ちてしまいそうに、危うく見えた。



ゆかちゃんは何事も無いかのように落ち着いた顔をしてたけど、そんなのでごまかしきれないくらい。
ゆかちゃんの周りの空気というか、世界の色が、さっきまでと全然違った。
あ〜ちゃんがいなくなると。
ゆかちゃんの世界は、虚ろに、色を失っていた。
こわいくらい、ゆかちゃんの何もかもから、光が失われていた。冷たく死んだ星のように。
さっきまでしっかりとあ〜ちゃんを支えていた、冷静で大人びたゆかちゃんが。
こんなにも、もろい。
あ〜ちゃんがいなくなると、こんなにも危うい。
あ〜ちゃんに何かあると、駄目になっちゃうのはむしろゆかちゃんなんじゃ。
…もしかしたら。
あの、ゆるくつながれたあ〜ちゃんの手は。
ゆかちゃんに甘えるようにすがりつく手ではなくて、「大丈夫じゃけえ」って伝えてた手だったのかもしれない。
自分を役立たずだと責めていたゆかちゃんを、そっとなだめるように。
…あーあ、もう。
この2人ときたら。
ちっとも大丈夫じゃないじゃないか。
まったく、もう。
ほんとに可愛いすぎるんじゃけえ。
…あーあ。ほんとに、好きだ。この2人が、好きだ。
あ〜ちゃんとゆかちゃんが、大好きだ。
…しょうがないなあ。のっちがしっかり支えてやんよ。
ほら、縁の下の力持ち、って言うじゃん?




「…ゆかちゃん、安心していいけえ。明日からのっちがあ〜ちゃん守るけえ」
使命を見つけた忠犬みたく、誇らし気に胸をそらせて言ったあたしに、
「…10年早い」
ゆかちゃんはぼそっと言い捨てると、邪険にシッシッと追い払うように手を振った。
「えー、何でー!?」
「うるしゃい!10年どころか100年早いんよ!!」
くるりと背を向けてつかつかと歩き出したゆかちゃんは、怒りの為か、もうすっかりしゃんとしてて、あたしはほっとした。


#5へつづく







最終更新:2010年05月17日 21:14