それからのあたし達3人の関係は、ナチュラルにバランスのとれた、完璧なかたちをとっている。
きれいな直角二等辺三角形を描くように。
不自然なまでに、数学的に綺麗な、均衡のとれたかたち。
…しかし、まあ。
ゆかちゃんから10年どころか100年早いと馬鹿にされてたのっちが。
今や、のっちを置いてほかにあ〜ちゃんにふさわしい者はいない、とゆかちゃんに認められる存在になろうとは。
「…はあ!?誰がそんなこと言ったんよ!?」
しみじみと感慨深く思い出を味わっていたあたしを、ピシャリとゆかちゃんが現実に戻した。
「ゆかが言ったのは、他の誰かより、のっちのがマシ、って意味じゃけえ。
あ〜ちゃんにふさわしいなんて、ひとっことも言っとらん」
ゆかちゃんは長い脚を組み直しながら、挑発的ににやりと笑って、
「…それに、のっちからならあ〜ちゃんを取り返せる自信あるし」
「それって別れる気全然無いじゃん!!」
「じゃけえ言うとるじゃろ、『万が一』『可能性がゼロに近い』『もしも』の場合、って」
…ぬぬぬ。
あたしのへの字口を素知らぬ顔で、ゆかちゃんはさらさらと髪を揺らして、またあ〜ちゃんに視線を戻した。
やっぱりゆかちゃんは一筋縄ではいかんわ。
でも、強気な憎まれ口を叩きながら。
ちゃんと、あたしの想いを肯定してくれた。
諦めきれなくて堂々めぐりをしてたあたしの想いに、方向性をつけてくれた気がする。
ふっ、と肩の力を抜くように息をついて、あたしもあ〜ちゃんに視線を戻した。
グラウンドの向こうで無邪気に笑ってるあ〜ちゃん。
やっぱりのっちはあ〜ちゃんが、欲しい。
それは純粋で、まっすぐな欲求。ごまかせないほど、はっきりとした感情。
だから、好きなら好きのままで。
歪めたり、曲げたり、無理に軌道修正することなく。
のっちはのっちらしく、ただあ〜ちゃんを好きでいれば、あたし達の綺麗なトライアングルの中で、まろやかに溶けてゆくから。
制御のつかない愛おしさが、時々あたし達を苦しめるけど。
あたし達は互い以上のものを何も持っていないんだから。
いつもそれは、緩やかにバランスのとれた三角形へと落ち着くんだ。
だからあたしも、愛しさのおもむくままに。
たとえゼロに近い可能性であっても。万が一の時に、すかさず駆け寄っていけるように。
ゆかちゃんからお墨付きはもらったしね(本人は認めてないけど)。
あたしとゆかちゃんは、また2人肩を並べて、あ〜ちゃんの鑑賞を始めた。
さわさわと風に髪を揺らして。
また、まったりとした空気があたし達を包む。
その時。
「「…あ。」」
2人の口から同時に声が出た。
あたしとゆかちゃんの目が合う。
そして2人して小さく頷き合うと、
「あ〜ちゃん!そろそろ帰ろうよ〜」
「あ〜ちゃん置いて帰っちゃうよー!」
とグラウンドのあ〜ちゃんに向かって、手を振った。
「もー!どしたん、急に!?まだあ〜ちゃん遊びたかったのに!」
ぷんぷん怒りながらグラウンドから駆け寄ってきたあ〜ちゃんの手を、ゆかちゃんがそっと取る。
あたしも身を乗り出して、あ〜ちゃんの手をのぞき込んだ。
「…あ〜ちゃん、さっき指大丈夫だったん?」
「さっきボールを変な風に取った時、痛めんかった?」
「爪、折れとらん?」
サラウンド方式に、あたしとゆかちゃんに代わる代わる尋ねられて、
「もー!何かと思ったら…!
のっちもゆかちゃんも、過保護なんじゃけえ!!」
あ〜ちゃんはむうっと怒った顔をして、ぷいっと背を向けて歩き出した。
あたしとゆかちゃんは顔を見合わせて、肩をすくめた。
ぷんすか腹を立てて、ずんずん先を歩くあ〜ちゃんの髪が、初夏の風に柔らかく揺れてる。
それを見つめる、ゆかちゃんの目。
優しく穏やかに微笑んだ、でもどこか痛みをこらえるような。
こわいくらい、綺麗な。
あたしの見慣れた、あ〜ちゃんとゆかちゃんの風景。
ゆかちゃんが、あ〜ちゃんを追って、歩き出す。
あたしも、ゆっくりと一歩踏み出す。
あたし達は、また三角形をかたちづくる。
綺麗で、日常的な、あたし達の風景。
終わり
最終更新:2010年05月17日 21:16