Side K
そろそろ本格的に夏を迎える7月
まったくもう、のっちのヤツ裏切りよってからにぃー!
部活なんて面倒くさい!言うてたじゃん!
なに急にちゃっかりダンス部入っとるんよ?
二人で帰宅部じゃー言うてたじゃろ!
ゆかは一人のっちにプンスカしながら、グラウンドにやって来た
いくつかの部活が活動してる中に、陸上部を見つけると
木陰に座って練習風景を眺める
これは最近の習慣、一人で帰ってもヒマだし…
はぁ〜、あっついのによくやるわぁ
そこには、普段はふわりとしてる髪の毛をポニーテールにして走るあ〜ちゃんがいる
あ〜ちゃん走るの速いから、中学の時から陸上部に所属していた
いつも無邪気な表情が、走る時にはまるで違う人みたいに、キリッとカッコよくなるんよ
そんで、走り終わるとまたキラキラと楽しそうに笑っとる
走るのが嫌いなゆかには、理解に苦しむ光景だ
だって走るのって苦しいもん
さっぱり分からん…
…
ふぁ〜…
暑くても眠くなるもんじゃね〜
てか、暑くて疲れるんかな、、?
木陰の心地良さに瞼を閉じて、生徒たちの声を聞いてた、、はずなんけど…
ひゃぅ!
突然首筋に感じた冷たさに、体がビクッと反応した
「良かったぁw生きとったw」
声のした方に顔を上げると、冷えたペットボトルを差し出してニコニコしてるあ〜ちゃんがいた
「今、あまりの冷たさに、ショック死するか思ったわ」
ペットボトルを受け取りながら、溜息をついてみる
「そしたら、ちゃんと穴掘って埋めとくわw」
なんて言いながら、あ〜ちゃんも横に座ってくる
「てか、放課後にグラウンドの隅で寝とるなんて、ゆかちゃん暇人じゃねw」
「そー、のっちが裏切ったせいで、ゆかは暇人なんよー」
どうやら、部活の時間は終わったらしい
グラウンドには、片付けをしてる人がちらほら
「ふふwダンス部じゃっけ?ヒロコ先輩めっちゃ可愛くて格好ええww超目ぇキッラキラさせて言うとったもんね?」
「ゆかにひっと言も断り無しに入りよったけぇ」
「ほんなら、ゆかちゃんも写真部入ったらええのにぃ。好きじゃろ?カメラ」
「部活でしたいと思わんもん。そこは一番自由なトコにしときたいけぇ」
「ふ〜ん、そうなんじゃぁ」
ペットボトルのキャップを開けて一口飲み込むと、飲料水が体の中を流れて、その冷たさを改めて実感する
「あ〜ちゃん走ってて暑くないん?」
「ええ?そりゃ暑いっしょw体中汗ダクダクよぅw」
「苦しいとかって思わんの?」
「まぁ、息苦しいwとかはあるけど、、でも走り切った時のあの爽快感?やり切った感じ?最高じゃよ?w」
思い出しながら話すあ〜ちゃんの表情は、やっぱり楽しそう
「ん〜、ゆかにはよぅ分からんわ〜」
「えー?分からんの〜?なんなら今走ってみる?」
「ぇ、、ゆか走るのきらーぃ」
「えー!うそぉ!なぁにもったいないコト言うとるん!絶対気持ち良いってw」
「ゆか制服だしぃ、、」
「あ〜ちゃんの予備貸したげるけぇw」
「…」
色々、逃げる言い訳をしようとしたんけど、多分どれも全部あ〜ちゃんには通用しなそうで、潔くあ〜ちゃんのTシャツと短パンを借りることにした
「あ〜ちゃんも一緒に走るん?」
部室を借りて着替えて戻ってくると、スタートラインでストレッチ中のあ〜ちゃん
「もちろん!考えてみたらぁ、ゆかちゃんとこうやって並んで走ったことってないなーと思ってw」
あー、、言われてみればそんな気もする
あ〜ちゃんと並んで、ゆかも軽くストレッチ
「ゆか、体育でもいっつもビリっけつじゃけぇ。かなり差つくんじゃない?」
「そしたら、ゴールでゆかちゃんお迎えしちゃげるけぇw」
「お願いしま〜シュ」
「ゆかちゃん」
「ぅん?」
「走る時は、思いっっきり!走ってぇ、風を感じればええんよ。んで、ゴールしたら自分がんばったー!って思えば、それでええんよ?」
「…ん、分かった」
ゆかが頷くとニカッて笑うあ〜ちゃん
「そいじゃいくよ?」
位置についてぇ?
あ〜ちゃんの声を合図に、膝を突いて両手も地面に突く
よーい…ドンっ!
その声に、地面を思いっきり蹴って走り出す
あ〜ちゃんに言われたように、自分の今の全力で走る
次第にあ〜ちゃんの背中を追うように走って、意外と100メートル長…とか思ってたら
前を走るあ〜ちゃんの周りに風が見えた
そっか、あ〜ちゃんは風の中を走ってるんだ
走っていたあ〜ちゃんがUターンしたと思ったら
「もー少しじゃよぉーw」
って叫んでるあ〜ちゃん
あぁ、あそこがゴールか…
そう思ったら、さっきよりも地面を蹴る力が強くなって
自分の脚に、まだそんな力が残ってるのに、少しだけ感心しながら
ゆかは最後の力で、あ〜ちゃん目掛けて走った
もちろん、ゴールしても止まれる余裕なんてなくて…
「ぇ、ちょ、ぅわぁww」
そのままあ〜ちゃんに突っ込んじゃって、二人して地面に倒れ込んだ
「はぁ、はぁ、、」
ゆかは半端ない息切れで、あ〜ちゃんに抱き付いとるような体勢から、グラウンドに両手足を投げ出してゴロンと仰向けになる、
「ゆかちゃん大丈夫?」
呼吸の乱れ一つないあ〜ちゃん
「だいじょぶ、、じゃ、なぃ、、」
「みたいじゃねw」
あ〜ちゃんはそう言うと、隣でゆかと同じように寝転がって、ゆかの呼吸が落ち着くまで待ってくれる
「はぁー…あ〜ちゃぁん」
「ゆかちゃん落ち着いた?」
「うん、、」
「どうじゃった?って聞いても、その感じだと愚問じゃねw」
「あー、うん。やっぱゆかには理解できんかったわぁ」
確かに、かなり自分がんばった!感はあったけど…
あ〜ちゃんの背中ばっか見てて、風を感じる余裕はなかった
「まぁ、しょうがないかぁw」
諦めて、後ろ手を突いて上半身を起こすあ〜ちゃん
「けど、、」
「ん?」
寝転がったままのゆかを見下ろすあ〜ちゃんは、変わらず爽やかな笑顔
「いっつもゴールにあ〜ちゃんおってくれたら、楽しいかも…」
あ〜ちゃんのその笑顔が迎えてくれるんなら
走るのも、悪くない…
「ぇえ?それは無理じゃろw」
「あー、やっぱ無理か…」
その笑顔を、もっと見たい…
また一緒に走ったら見られるん?
「あんさ〜ぁ?」
「なん?」
でもやっぱ、苦しいんはイヤじゃけぇ
「陸上部マネージャーって、まだ空いとる?」
<入部希望>fin
最終更新:2010年11月06日 01:17