ここは都内のとある女子大学の学食。
西脇、樫野、大本の3人が昼食をとっていた。
「ねえ?この前の統計学のレポートいつまでだっけ?」
「何言っとるん?明日までよ」
「やべぇ!まだ何もやってないや…」
3人はこの女子大学の学生だ。
3人とも大学で初めて知り合ったのだが、出身の県が全員同じという共通点があったため、すぐに打ち解けあった。
授業を受けるにも、昼食を食べるのもいつもこの3人でいる。
大本はラーメンを食べ終わると教科書を鞄から引っ張り出した。
カレーを食べている西脇に差し出す。
「ねぇ?ここわかる?あたしずっと寝てて覚えてないんだわ…」
「このアホ…」
西脇は呆れている。樫野はパスタを噛みながら笑っている。
「のっちは相変わらずじゃね」
大本は遅刻魔で、授業中は居眠りをよくするなどの典型的なダメ学生であった。
ちなみに去年は必修単位を落としており、あと一歩で留年という有様である。
「あ〜ちゅわ〜ん。助けてくらさ〜い」
大本は迷子の子犬のように西脇にすがるが、軽くあしらわれた。
昼休み終了間際になり、3人は学食から出た。
ここで樫野が選択した授業が急遽休講になったため、樫野は帰宅することになった。
「いいな〜ゆかちゃんは授業なくて…」
「あんたはどうせ寝てるでしょうが!」
西脇は大本をツッコミながら同じ教室に入り、樫野は2人に別れを告げて大学の正門を出た。
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樫野は大学の最寄駅から帰りの電車に乗った。
綺麗なロングヘアーが靡いている。
「今日はヒマだし、どっかで途中下車してフラフラしようかな〜」
定期券の範囲内でのうろつきは経験した方も多いだろう。
お金の少ない学生ならいい暇つぶしになる。
樫野は大学の最寄り駅から数駅のところで降りて、散歩をすることにした。
「降りる駅間違えたかな…」
樫野が降りた駅は住宅地のど真ん中の駅だ。
繁華街であれば、良い雑貨屋や美味しい飲食店を探すことができるが、住宅地ではなかなか難しい。
「まあいいや。路地裏でもうろつこう」
樫野は美髪を振りながら路地裏を歩き出した。
「あれは誰だろう?」
路地裏を少し歩くと怪しげな人間が見えた。
占い師だろうか?
全身黒装束のような服を身にまとい、顔も目だけを出して隠している。
大きな冠を頭に乗せ、きらきら光るアクセサリーをあちこちに装備している。
赤いテーブルクロスがかかった小さめの机を設置し、その向こう側の椅子に腰掛けている。
何者だろうか?
「ちょっとお待ちなさい」
樫野がその怪しげな人物の前を横切ろうとすると、声をかけられた。
しかし怪しげな身なりの割には声はどこか優しげであった。
20代半ばくらいの若い女の声だった。
「あ、あたしですか!?」
樫野は戸惑いながら返事をする。
「催眠術を使いたいと思いませんか?」
「はぁ?」
その女は意味不明なことを口にしだした。
樫野は細い目をもっと細めて女を見つめた。
「私は催眠術が使える道具を今持っているんですよ」
「あの〜仰っていることがよくわからないのですが…?」
「じゃあ現物を見せましょう。こちらです」
女は自分のバッグからメガネを取り出す。そのバッグもきらきらしていて目が痛くなりそうだ。
メガネは意外にも普通のものだ。そのあたりで売っている黒縁の伊達メガネである。
「これをかけると催眠術が使えますよ。いかがですか?」
「いきなりそんな…というかどこからこんなメガネを手に入れたんですか?」
「それは言えません。私は秘密の商人ですから」
どうやらこの女は商人らしい。
見た目も、持っているメガネもちょっと怪しい。
「お嬢さんも催眠術を使いたくないですか?いろんなことができますよ〜」
「いろんなこと…」
「そう、人を自由に操ることが出来るのですよ」
「人を自由に…」
樫野は想像をしてみた。
イタズラ好きの小悪魔と呼ばれるこの女が催眠術を使い出したらどうなるのだろう?
「どうですか?欲しくありませんか?催眠術を使ってみたいでしょう?」
「まあ、一度くらいなら使ってみたいような気もします」
「このメガネをかけて、催眠術をかけたい相手を見つめて、好きなように念じれば操ることが出来るんです」
「はぁ」
「それにこのメガネはあなたに似合うと思いますよ!お嬢さんは美人ですし」
「そ、そうですか…」
メガネは現代的な黒縁の伊達メガネだ。
今の若い女性なら結構所持している人も多いだろう。
「こちらの商品を日本円で100万円でお売りいたします」
「ひゃ、ひゃくまんえん!高いですよ!」
「そうですか、それは残念ですね…あ、それは…!?」
商人は樫野が身に着けている指輪を見ながら話した。
「お嬢さん!その指輪すばらしいですね!そちらとこのメガネを交換でどうでしょうか?」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんですとも!」
樫野は左手の中指から指輪をはずして商人に渡し、代わりに催眠術が使えるメガネを手に入れた。
「交渉成立ですね。ありがとうございます」
商人は深く頭を下げてお礼を言った。
樫野は商人に別れを告げ、先ほどの駅へと引き返した。
「いいのかな100万円するクスリをあんな安物の指輪と交換して」
樫野が渡した指輪は500円で購入したものだった。
つづく。
最終更新:2010年11月06日 01:38