のっちがゆかと付き合いだして、2週間が過ぎようとしていた。
それと同時に、のっちの生活態度はみるみるうちに悪化した。まるで、あ〜ちゃんと出会う以前ののっちに戻ったかのように。学校へは、ゆかが行くから通う。しかし、帰宅するのはゆかの住むマンション。母親から何度も心配の電話がかかってきても、返事はメールで済まし、『ちゃんと学校には行ってるから。』しか返信しなかった。
「のっちー、起きてよー。」
下着姿のゆかの隣で、もぞもぞと布団を引っ張りながらベッドの中で動く。ゆかは、のっちの身体を揺らすが、一向にのっちは起きる気配がない。当初、シングルのベッドに、2人寝続けるのは窮屈に感じていたが、それにも慣れてきた頃だった。
「学校、遅刻するよ。」
「んー…。」
「ちょっと、のっち。」
「なに…あ〜ちゃ…。」
無意識に洩れた名前に、のっちの身体を揺らすゆかの手がぴたりと止まった。眉間に皺を寄せ、眠たげなのっちを前に、ゆかは何も出来ずにいた。小さく息を吐くと、ゆかの手が思い切りのっちの頬を抓る。
「いでっ!」
「もう起きないと遅刻します。」
「ゆかちゃーん…。」
抓られた頬を慰めるように手を添えるのっちの前には、唇を小さく突き出したゆか。導かれるかのようにキスをした。
退屈な授業。のっちが授業を面白いと思ったことなど、遡ればあ〜ちゃんとクラスが一緒だった中学の頃の音楽の授業かもしれない。あ〜ちゃんと、授業中にも関わらず替え歌を作っていた過去を、空を眺めながらのっちは思い出していた。
昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響き、いつものようにのっちはリュックサックを背負って教室を出た。廊下で立ち止まって話をするカップルが鬱陶しい。ゆかとの待ち合わせ場所に向かう最中、あ〜ちゃんのクラスの前を通った。足早に、視線を外すことなく通り過ぎて。
本日は、保健室。ゆかと出会った頃、のっちは頻繁に保健室に出入りをした。がらりとドアを開ければ、ベッドに腰かけたゆかが、嬉しそうに手を振る。その笑顔を見た瞬間、のっちは素直にゆかのことを可愛いなあ、と思った。あ〜ちゃん以外に“可愛い”と思える人間が現れたことに、のっち自身も驚く。そして、ゆかがのっちの初めての恋人であることを再認識する。
「最近うちらコンビニ弁当ばっかだね。」
「当番制にする?」
「えー、のっち絶対作らんじゃん!」
今朝、コンビニで買ったサンドイッチを2人して頬張る。のっちの弁当は、母の手作りではなく、コンビニの大量生産品になった。
食べ終わると、ゆかは、「お腹いっぱーい。」と言いながら、ベッドにごろんと寝転がった。隣に腰掛けているのっちは、そんなゆかを見下ろして微笑んだ。すると、ゆかの右手がのっちへと伸びていく。のっちは、首を傾げながらゆかの右手へと近づいていくと、手が頬に触れた。そして首の後ろに回った右手が、思い切りのっちをゆかへと引き寄せた。体制を崩したのっちは、そのままゆかの胸へと倒れこんだ。
「ゆかちゃん?」
急に抱き寄せられて、ゆかの表情はのっちからは見えない。ゆかの気持ちが読めず、その真意が知りたくて、のっちはゆかの名を呼んだ。
「…ねえ。」
「ん?」
「シたい。」
耳元で囁かれた言葉は、昼間の学校には到底似合わない言葉だった。
「なにいってんの、冗談…。」
「ゆかは、いつでも本気だよ?」
やっとあげた顔、確認出来たゆかの表情は真剣そのものだった。
「ゆかのことが好きなら、出来るよね?」
首を撫でていたゆかの右手がまた、のっちの頬に触れる。どこか寂しげにも見える瞳から、のっちは眼を逸らせずにいた。ごくりと唾液を飲み込む音が、より一層、リアルに感じた。
「のっち…。」
甘くて儚くて。のっちの名を呼ぶゆかの声は、のっちの感情を高ぶらせた。ゆかの身体に跨ると、のっちの身体はゆっくりと降りていく。
「ん…ちょっとだけだよ、ゆかちゃん。」
嬉しそうに微笑むゆかが、のっちは愛しくて仕方がなかった。満たされている、そう思わずにはいられなかった。
最終更新:2010年11月06日 01:41