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樫野は家に着き夕飯を食べた。
野菜嫌いなため、食べたものは近所のスーパーで買った焼き鳥と、
家で大量に炊いて冷凍保存してある白ご飯。

樫野は先ほど入手した催眠術メガネを鞄から取り出し、試しにそのメガネをかけてみた。
見た目は何の変哲も無い黒縁の伊達メガネである。

「本当にこれで催眠術が使えるのかな〜」

樫野は半信半疑である。
見知らぬ怪しげな女から手に入れたものであるため、にわかに信じがたい。

「明日のっちを実験台にしてみようかな」

実験台などのいじられ役は大抵大本だ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

翌朝になった。

樫野は朝食をとり、メイクをして例のメガネをかけて家から出た。
自宅の最寄り駅の改札を抜けて電車に乗る。
この時間帯は通勤通学ラッシュで込んでいる。
1限から授業のある学生にはつらい時間帯だ。
途中で一回電車を乗り換えて樫野は自分の大学に着いた。

教室に入るとまだまだ空いていた。
樫野は後ろの方の席に腰掛ける。
遅刻してくる大本のためだ。
この授業は西脇は選択しておらず、例の3人組の中では大本と樫野のみが受けている。
まだ9時前なので、遅刻魔の大本は当然現れない。

9時になり、担当教授が現れ授業が始まった。
この授業のテストは持ち込み可能であるため、配布するプリントを試験当日に持っていけばほぼ確実に単位が取れる。
そのため授業は寝ている者が多く、板書を丁寧にとる学生はほぼいない。
樫野もケータイを弄っており全く聞く気配も見せない。

授業開始30分後に大本が出現した。
樫野の催眠術ターゲットである。
何も知らない大本は樫野の横に普通に腰掛けた。

「おはようのっちぃ」

樫野はいつもどおりの魅惑のアニメ声で大本に挨拶をする。

「おはようゆかちゃん!そ、そのメガネ!」

大本は普段メガネをかけていない樫野のメガネ姿に興味津々である。

「どしたん?のっち?」
「エロい…」
「はぁ…な、なにいっとるん!?」
「ゆかちゃんのメガネ姿エロ過ぎるよ!エロ女教師みたい。エロメガネって呼んでいいれすか?」
「あんた頭沸いとるん…?」

予想外の大本の反応に樫野は呆れている。
大本は興奮しており、朝から元気な様子だ。

そこで樫野は本来の目的を思い出した。
大本に催眠術をかける作戦だ。
本当にかかるのかよくわからないため、大本で試そうとしている。

昨日の女は相手を見つめて念じることで催眠術にかけることができる。と言っていた。
樫野はそれを実現させるために大本をじっと見つめた。




「なんれすかそんなにじっと見つめて…?エロメガネに見つめられたら、あたしおかしくなっちゃいそう…」
(今からHGのモノマネしてよ。フォー!って)
「あれ…?」

樫野は大本の目を見つめて強く念じた。
すると大本は座っている椅子の上に足を乗っけて立ち上がりだした。

「講義フォーーーーー!!!」

大本は両手を斜めに延ばし、足をクロスさせて机の上に乗っている。
見事な某芸人のモノマネである。

樫野は驚いた。本当に大本を催眠術にかけることができるとは思っていなかったのだから。
あの女の言うとおりに、相手の目を見つめて念じることで、思い通りにできてしまった。
彼女はホンモノの商人だった。

他の学生は失笑したり、ドン引きしている。

大本は未だに机の上に立ったままだ。

「そこのキミ何をしているのかね!おとなしく座って授業を受けなさい!」

教授は声を荒げた。当然の反応である。

しかし、大本の顔は無表情で机の上から降りようとはしない。
教授の話も耳に入っていないらしい。
まだ催眠術にかかったままのようだ。

「のっち!しっかりして!」

樫野が大本の腕を引っ張った。

しかし、大本は机の上から動こうとはしない。

「のっち!!」

樫野が大本の正面に立ち上がり、じっと大本の目を見つめて叫んだ。

すると大本は我に返り、落ち着きを取り戻した。

「えっあ、あの、す…すみません…」

大本は教授に謝り、おとなしく椅子に座った。

どうやら催眠術を解くときにも、相手の目を見つめて念じなくてはいけないらしい。

その後は他の学生のどよめきが響き、いつもとは違う空気で授業は進んでいった。

大本は何が起こったかわからないようだ。
催眠術をかけられた本人の記憶に、催眠術の内容は残らないらしい。

(うわーびっくりした〜。このメガネ本物だよ!ていうかのっちごめん!!)

樫野は心の中で大本に謝った。

大本はそれからずっと突っ伏して寝ていた。
自分が何を起こしたのかもわからずに。

つづく。





最終更新:2010年11月06日 01:50