「なんかさっきはヘンだったな。気づいたら私は机の上に立ってるし」
先ほどの授業が終わり、大本は眉毛を八の字にしながら呟いた。
「そうだね…なんかヘンだったね…」
樫野は笑いながらごまかそうとしていた。
まさか自分が催眠術をかけていたなんて口が裂けても言えない。
催眠術をかけられた者はその間の記憶がないために、大本は当然自分が何をやらかしたのかわかっていない。
「それにさっきからみんな私をジロジロ見ている気がするんだけど?」
「気のせいだよ!気にしないで!」
授業中にあんなことをやったのだから、周りからの注目度が高いのは当然である。
樫野と大本は2限目の授業を行う教室に着いた。
「おはよう〜!ゆかちゃん、のっち!」
西脇が元気に登場した。
「ゆかちゃん今日はメガネかけとるん?めっちゃ似合うわ〜!なんかエロいし」
「のっちと同じこと言わんでよ」
「えっ!のっちもおんなじこと言ったん?あ〜ちゃん後で病院行くわ」
「ちょ!それはひどいれす!」
いつも通りの3人のトークが繰り広げられた。
そんな中、樫野のいたずら心が働いた。
(あ〜ちゃんに催眠術をかけてみよう。あ〜ちゃんはかわいいしデレデレになってほしいな〜)
樫野は西脇をじっと見つめだした。
「どしたん?あ〜ちゃんの顔になんかついとるん?」
(あ〜ちゃん。これからはゆかにべったりイチャイチャしてね☆)
「あれ?」
西脇の目つきが変わった。トロンとしており、何かに酔ったようだ。
「のっち!そこどきんさい!あ〜ちゃんはゆかちゃんの隣に座るけぇ!」
西脇は樫野の隣に座っていた大本を椅子から引きずり出した。
「えっ!?ちょっとなにするん!?」
大本は戸惑っている。
西脇は素早く樫野の隣に座り、樫野の腕に巻きついた。
大本は仕方なく、西脇がさっきまで座っていた席につく。
大本は西脇が大好きだった。
西脇はいつも明るく元気が良く、誰からも愛されるような乙女だ。
まさに天使とは彼女のことだろう。
樫野はそれを知っていながらわざと大本の前で西脇といちゃついた。
小悪魔のイタズラである。
チャイムが鳴って2限の授業が始まっても、西脇は樫野の肩に頭を乗せたままだ。
樫野は西脇の可愛いパーマヘアーを撫でる。
大本は一列後ろの席で、眉毛を八の字にしながら寂しそうな子犬のような目で2人を見つめる。
「ゆかちゃ〜ん」
西脇が甘い声で樫野に囁く。
「どうしたんあ〜ちゃん?」
「あ〜ちゃんのほっぺにキスして〜」
西脇の頬は赤く目つきはとろけきっている。
「授業中にそんなこと出来るわけないじゃろ☆」
樫野はニヤニヤしながら答えた。
端から見ればただのバカップルの会話である。
「もう我慢できん!」
西脇はいきなり樫野の頬に口づけをした。
後ろの座席に座ってい大本が唖然とする。
「ちょっと!何しとるんよ☆」
樫野は嬉しそうに言った。
後ろで大本は目を潤ませていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2限の授業が終わり昼休みになったので、3人は学食へと向かった。
西脇は未だに樫野にデレデレである。
「は〜いゆかちゃん。あ〜んして!」
「あ〜ん」
西脇がミートボールを箸でつまみ、樫野の口へと運ぶ。
「おいしいですか?」
「あ〜ちゃんがお口に入れてくれたから、とっても美味しいよ!」
樫野も笑顔で答える。
「あの〜のっちも忘れないでほしいんれすけろ…」
大本が蕎麦をすすりながら寂しそうに呟いた。
(のっちこのままだとかわいそうだな。今日はHGのモノマネまでやらせちゃったし…)
樫野はさすがに大本を気の毒に思った。
(そうだ!いいこと思いついた。ニュヒヒ…)
樫野は大本の目をじっと見つめた。
「なーにエロメガネさん?のっちの顔がそんなに気に入ったんれすか?」
(のっちもゆかにデレデレになりなさい!)
「あれ…?意識が…」
樫野の催眠術で大本も西脇同様に樫野にくっつきだした。
「ゆかちゅわ〜ん!あたしゆかちゃんがだーいすき!」
樫野は2人の美女と密着してとても幸せそうだ。
(ニュヒヒ。2人のかわいい女の子がゆかにべったり!)
樫野の左腕に西脇、右腕に大本が絡みつき3人は学食を出て、3限の授業の教室へと向かった。
他の学生は、絡み合っている3人を不思議そうな目で見つめていた。
3限の授業の教室は運よく3人がけの机だった。
樫野を真ん中に左に西脇、右に大本が座る。
「ゆかちゃんの髪キレイ〜」
大本が樫野の髪を自分の指に巻きつける。
「ゆかちゃんの細い二の腕も大好きじゃ」
西脇は樫野の二の腕をつまむ。
樫野は満足そうに両腕で両者の頭を撫でる。
西脇は樫野の顔に頬ずりした。
「ゆかちゃんの顔はすべすべして気持ちええのう」
大本も樫野の顔に自分の頬を密着させる。
「ゆかちゅわん☆」
3人の顔が、密着した状態で横に並んだ。
横にした串団子のようだ。
ムニッ
今度は西脇がグラマラスな自分の胸を樫野の腕に押し当てた。
「あ〜ちゃん胸が当たっとるよ☆」
樫野はうれしそうに西脇に言う。
「あたしもやる!」
大本も負けじと自分の胸を樫野の右腕に押し当てた。
「のっち。パッドが当たって痛い…」
大本の顔が赤くなった。
「あ〜ちゃんが大きすぎるんだもん」
大本がぼそりと呟くと、樫野は大本の頭を撫でた。
「今度はその胸を見せてね」
樫野の言葉に大本の表情は生き生きとした顔に変わる。
大本は興奮している。
(今日は3限で授業終わるし、このまま2人をお持ち帰りしちゃおう。ニュヒヒ)
樫野は西脇と大本を家に連れて帰ることにした。
この小悪魔は自宅である企みを実行しようとしていた。
催眠術の悪用だ。
つづく。
最終更新:2010年11月06日 01:54