今日から新しい現場。
今まで歌手とかタレントしか担当してなかったから、ドラマの現場は初めて。
なんか全然違う。人いっぱいいるし。
役者はなんかオーラが違う。

あたしはちゃんと10分前に到着して、ミキちゃんを待つ。
待つ待つ待つ・・・。
むむ〜時間になっても現れないぞ?
ほら、監督さんとかスタッフさんとかソワソワし始めた。

30分経ってようやくミキちゃん登場。
マネージャーさんは速攻周りの人たちにペコペコしてる。

ミキちゃんは他の役者さんたちとはまた違ったオーラをバンバン放ってる。
ちょっと怖いけどやっぱり綺麗だわ。
あたしこの人のヘアメイクちゃんと出来るのだろうか・・・。
心配になってきた。
あぁ、そんなことより挨拶しなきゃ!

「おは、、、初めまして。よろしくお願いします。あ、おはようございます。ヘアメイクの大本です」
「自己紹介と挨拶ごっちゃになってるけど。大丈夫?」

わーい。初対面なのにすんげー馬鹿にされちゃったんですけど。
もうすでに泣きそうだ。
マネージャーさんは半泣きだ。

ミキちゃんは遅刻を全然反省してない様子でスタッフさんに案内されて楽屋に入っていった。

なんかもうヤダ。
あ〜ちゃんに会いたい。
タカコさんのアシスタントやりたい。
もうこのさい本気で主婦になろうかな。
そう思ってた時、監督さんに呼び止められた。




「ミキちゃんはとっても気難しいから、絶対に機嫌損なわせないこと!!いいね!」
「・・・は、い」
「そんでメイクは15分で終わらせて!!」
「・・・じゅ、15分ですか?それはさすがに・・・」
「15分で終わらせて!!後、押してるから!!これ以上待ってらんないんだ!!いいね!!」
「、、、はい。わかりました」
監督の必死すぎる血走った目に負けて、あたしは急いで楽屋に向かった。

ノックをして楽屋に入る。
楽屋にはミキちゃんひとり。
あたしは緊張しながら、声を掛けた。

「あの、メイクしていいですか?」
「んー」
あたしは緊張しながらも監督に言われた通りに15分で終わらせた。

「なかなかイイじゃん」
うおぉぉ!ミキちゃんにほめられた。
やっぱりあたしはやれば出来る子。
あ〜ちゃんにもほめてもらおうっと。

「あ、ありがとうございます!」
「でもさ、ちょっとグロスつけすぎじゃね?」
「えっ・・・あ、すいません」
あたしはグロスを抑えようとティッシュに手を伸ばした。
伸ばした手をミキちゃんに掴まれた。

えっ?どして?

ミキちゃんはきょとんとしてるあたしを見て笑った。

そしてチュって頬にキスされた。
でも唇スレスレの場所。

あたしは訳が分からなくって、瞬きするくらいしか出来なかった。




「ふふ。これで落ちたでしょw」
あぁ、たしかに。
あたしの頬にグロスがペチョっと付きましたからね。

ミキちゃんはなぜか上機嫌になって楽屋を出ていった。

なになんなの?
どういうこと?
あんまり深く考えなくていい?
あたし初対面の人におちょくられてるの?
もー。まったく意味がわからない。
これって、あ〜ちゃんに言えないだろ〜。

なんなんだよー!!

新年早々、とんでもない感じ。
そういえばお正月に引いたおみくじにこう書いてあったような。

『恋愛:恋人がいる人は要注意。周りに流されないように気をつけて』

んな、バカな。
って引いた時は思ったけど・・・。

おみくじ通りになっちゃうのかな?

でも、向こうは超人気の女優さんだしな・・・。
大丈夫だって。ただあたしをからかっただけだって。

そうあたしは自分に言い聞かせた。
家に帰ると、あ〜ちゃんがカレー作ってまっててくれた。

「ねぇ、ぽっぺに付いとるよ?」
「えっ!?な、なにが?」
「なにがって・・・ご飯粒じゃけぇ」
「あっ、、、あぁ」
心臓が止まるくらいドキっとした。
ミキちゃんのグロスが付いてるかと思った。

「なに〜?なんでそんな慌ててるん?」
「あ、慌ててなんてないよ!」
「ふーん」
なんで、あたしはこんなにビクビクしてるんだろう。
別に浮気してるわけじゃないのに。
ほら、あ〜ちゃんがなんか変な目で見てるし。
あーあ、厄介な仕事になっちゃったな。トホホ。

あ〜ちゃん・・・今でも思うよ。彼女の担当になってなかったら、そんなに酷くならなかったんじゃないかって。





最終更新:2010年11月06日 01:59