Side N
用を済ませて、家までの帰り道
あたしの携帯が鳴った
相手は、ゆかちゃん
「どうしたん?」
『のっち、今どこ?』
「家に帰る途中ー」
『そのまま、寄り道せんで帰ってよ?』
「なんでぇ?」
『たぶん、、あ〜ちゃんがそっち行くから』
「え?何で?」
『ちょっと誤算で、、私の気持ちあ〜ちゃんにバレちゃって…』
…
……
あたしは走った
とにかく走った
ゆかちゃんの気持ちが伝わったことは、実のところ嬉しい
嬉しいけど、、
あ〜ちゃんはきっと、自分を責める
ゆかちゃんのこともそうだけど…
あたしのことで、自分を責める
息を切らせながら、マンションの入り口までたどり着いた
ゼェゼェ言いながら、タクシー捕まえたほうが速かったなと、今さら後悔
…て、今はそんなこと考えてる場合じゃない
急いで中へ入って、エレベーターの上りのボタンを押す
と、一足先に誰かが呼んだらしく、上の階で止まってる…
こんな時に、、っ
待ってるのもじれったくて、階段で行こうとした時、ふとさっきエレベーターが止まった階の数字が過ぎった
あれ?あそこって…
あたしは、上ろうとした階段から戻って、エレベーターの前に立って
息を整えながら、その到着を待つ
そして、階を知らせるランプが『1』を点灯させた
開いたドアの向こうにいた人物は…
なんともいえない表情で、ビックリして声も出ないみたい
あたしがそのまま近づくと、反射的に一歩さがる彼女
構わずエレベーターの中に入って、左手で閉じるのボタンとさっき止まっていた階数を押して彼女を抱きしめた
「ゆかちゃんから、連絡きた…」
そう言うと、ビクッと肩を震わせて、あたしのコートを掴んできた
「の、ち、、ごめん、ね?」
震える声に、優しく髪を撫でる
「謝ることなんて、なんもないけぇ」
「でもっ、あたしが、、のっちを…っ」
苦しめた原因…
きっとあ〜ちゃんが言いたいのは、そういうこと
だけど、泣くのを必死に堪えて、言葉が続かないあ〜ちゃん
でもあたしは、あ〜ちゃんのせいだなんて、そういう風に思ったことはないよ?
確かに、ゆかちゃんが好きになったのが、あ〜ちゃんだったから、、あ〜ちゃんの好きな相手があたしだったから、、っていうのはあるけど…
「あ〜ちゃんが、あたしを助けてくれたんよ」
それが
すべてだ
Side A
今さらながらゆかちゃんの気持ちに気付いて
その後、ゆかちゃんと話をしたはずなのに、内容をあまりよく憶えてない
泣いてしまったあたしを、優しく抱きしめてくれたゆかちゃんの感触だけが残っている
…
気付いたらあたしの足は、のっちのマンションへと向かっていた
会っても、どうしたら良いのか分からないのに…
ただ、のっちに謝らなくちゃ
ただ、その想いだけだった
大好きな人との別れを、あたしのせいでさせてしまった
のっちを苦しめていたのは、、側にいたあたしだ
悲しみを減らすどころか、もっと苦しませてたの?
のっちは、どんな気持ちで、あたしといてくれたの?
…
のっちの部屋の前まで来たけれど、のっちが居ないのに気付く
そういえば、用があるって言って帰ったんだっけ…
どうしよう?待ってても良いの、かな?
あんまり、長く待ってる訳にもいかないから、5分だけ…
…
5分経ってものっちは帰ってこない
まぁ、5分、、じゃぁ、ね…
でも、仕方ない
約束をした訳じゃないから
あたしはエレベーターの前に立って、少し迷いつつボタンを押した
動き出したエレベーターが止まってドアが開く
その中に足を進めて、1階のランプを灯す
ゆかちゃん…
あたしは、このまま
のっちといても良いの?
階数を知らせるランプが、1階を知らせてくれた
開いたドアの向こうに人がいて、こんばんは〜って降りようとしたけど
その人の顔に固まってしまった
だって…そこにいたのは…
のっち…
このタイミングで帰ってくるって、どんだけよ…
まさかいるとは思わなくて、ビックリして声が出なかった
のっちの足がエレベーターへと踏み込んできた
心の準備が出来ていなかったあたしは、反射的に一歩さがるけど
のっちは構わず中まで入ってきて、あたしを抱きしめてきた
もう一度閉まるドア、そして動き出すエレベーター
「ゆかちゃんから、連絡きた…」
その言葉に反応して謝らなくちゃ、、って、あたしの手は無意識にのっちのコートを掴んでいた
「の、ち、、ごめん、ね?」
「謝ることなんて、なんもないけぇ」
何で、そんなふうに言ってくれるの?
「でもっ、あたしが、、のっちを…っ」
苦しめていたのに…っ
そう思うだけで、自分が苦しくなって泣いてしまいそうになる…
でも、あたしに泣く権利なんてない
泣いたって、苦しめた事実は何も変わらない
なのに…
どうして、、?
「あ〜ちゃんが、あたしを助けてくれたんよ」
そんなに優しく
あたしを受け入れてくれるの?
—つづく—
最終更新:2010年11月06日 02:54