樫野は廊下に転がっていた鉄パイプを拾いあげた。
武器にする気だろう。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」

樫野は無表情で恐ろしい単語を吐きながら鉄パイプを片手に歩いている。

樫野は、洗面所の鏡に写っている自分に向かって「教授を殺しちゃえ」
と発言してしまったため、樫野自身に催眠術がかかってしまったのだ。
つまり樫野は教授を殺すように操られている。

準備室があるこの棟は普段人の出入りがあまりないため、今の時間帯はほぼ無人だ。
そのため、幸いにも樫野のこの怖い姿を誰にも見られていない。
いや、誰かがいた方が止めてくれる者が出てきただろうから、そのほうがよかっただろう。

樫野は準備室のドアを乱暴に開けた。

「ああ君は樫田さん。ドアはもう少し丁寧に…」
ガチャーン!

教授が話している途中に大きな物音が鳴った。

樫野が手持ちの鉄パイプで机を叩いた音である。

「ちょっと何してるんだ!君ね…」
「お前をぶっ殺す…」
「ひぃ!」

教授もこれには驚いている。

「この鉄パイプで頭かち割ってやるから、覚悟しなジジイ」
「お、落ち着け、話せばわかるから、なっ?なっ!?」

この教授も恐怖心からか混乱している。

樫野が鉄パイプを振り上げた瞬間だった。

バーン!

大きな物音と同時に樫野が倒れた。

大本だ。
大本が準備室に入ると同時に樫野を突き飛ばしたのだ。
樫野のメガネが吹き飛び、床に落ちた。

「あたしほとんどレポート出したことないから準備室の場所がわからなかったよ…
おかげで迷っちゃって到着が遅れちゃった…ってそんなことどうでもいいか…」

大本は樫野の方を向いて気を取り直した。

「ゆかちゃん!あんたなにやっとるん!棒を振り回してあぶないでしょーが!!」




大本は樫野を制止する。しかし、樫野は起き上がり再び鉄パイプを手に取った。

「のっちどいて。ゆかはこのクソ教授を殺しに来たの」
「まだそんな寝言言っとんの!?いい加減にしんさい!」

大本は樫野を再び突き飛ばした。
樫野は自分のメガネの上に倒れた。
メガネは音を立てて割れて壊れた。

「あれ?ゆかどうしたんだろ?何やってたんだろ?」

樫野が正常状態に戻った。
メガネが壊れると催眠状態が解除される仕組みになっているようだ。

「ゆかちゃん…。さっきまでゆかちゃんは教授を鉄パイプで殴ろうとしてたんよ」

大本はおそるおそる話しかけた。

「うそ…なんで…あっゆかのメガネが割れてる!」

樫野は催眠メガネが壊れていることに気づいた。

「なんでメガネが壊れてるの!?もう催眠術がかけられないじゃん!!」

樫野は悔しがった。催眠術を駆使しての行動がもう二度と出来ないからだ。

「あのねぇ〜きみたち〜」

教授が樫野と大本のところへやってきた。

「キミはなんなの?何の悪ふざけ?鉄パイプなんか持ってきて」
「いえ、あたしにもよくわからないんです…」
「とぼけたってムダだよ!2人とも!」
「なんであたしまで…」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

幸いけが人も壊れた物もなかったため、樫野は厳重注意と3日間の停学処分のみで済んだ。

樫野は催眠術にかかっていたため、話を聞かれても結局その間のことは何も思い出せなかった。

また、今回の騒動でこの教授の普段の行動も問題視され、多少の減給処分を受けたようだ。

しかし、この謎の商人の話はまだ始まったばかりである。

3人はこれからも、この怪しげな商人の商品の騒動に巻き込まれていくことになるのであった。

第1章【操作】完

第2章【秘密】へ続く





最終更新:2010年11月06日 03:05