樫野の催眠術事件が起きてから2ヶ月。
夏になり、大学の講義室にはクーラーがかかっている。
午後の授業で、大本が平和そうに突っ伏して寝ていた。
「のっち!起きんさい!もう授業終わっとるよ!」
西脇が大本をゆすっている。
授業が終了しても大本は爆睡したままだった。
「むにゃむにゃ…」
「ほら!早く帰るよ!」
「あれ?ゆかちゃんは?」
「ゆかちゃんは用事があるからって、授業終了後速攻出て行ったわ」
大本があくびをして頭をかいている。
西脇は呆れている。
西脇と大本は講義室を出た。
西脇は思い出したように口を開く。
「そうじゃ!今日は学生課に行かなきゃだめだったんじゃ!のっちごめん!今日は一緒に帰れんわ」
「え、そうなの…。寂しいよ〜」
「しょうがないじゃろ用事なんじゃから」
「わかった。あたし一人で帰るね」
西脇は学生課のある号棟へと足を運んでいった。
大本は正門へと足を運ぶ。
「今日はゲーセンに行こうかな。いっぱい対戦してこよう!」
大本は大学近くのゲームセンターに向かった。
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バシッ!ボゴッ!
「よっしゃまた勝った!!」
「強えー…なんなんだあの女の子は!?」
大本はゲームセンター内で格闘ゲームをやっていた。
次から次へと現れる挑戦者を粉砕していく。
大本はかなりのゲーマーだ。
家庭用の据え置きハード、携帯型ゲーム、ゲームセンター内の業務用筐体、ネットーゲーム…
あらゆるジャンルのゲームに精通している。
一度ネットゲームにはまりすぎて、大学の授業の単位を落としたこともあったくらいだ。
「ようし10人抜き達成。今日はこのあたりで帰ろうかな」
大本はゲームセンターを後にした。
大本はゲームセンター付近の路地裏をうろうろしていた。
「あれは誰だろう?」
怪しげな女がいた。
占い師のような黒装束を服を身にまとっており怪しさ全開だ。
そう。彼女は以前樫野に催眠術が使えるメガネを売った女商人である。
今回はここにいた。神出鬼没な人物のようである。
「ちょっとお待ちなさい」
大本が女商人の前を横切ろうとすると、声をかけてきた。
「な、なんれすか!?」
大本は驚いて返事をする。
「透明人間になりたいと思いませんか?」
「??」
その女は突発的に発言した。大本も戸惑う。
「私は透明人間になれるクスリを今持っているんですよ」
「はい?」
「いきなりじゃあ驚きますよね?現物をお見せしましょう」
女は液体が入ったビンを大本に見せた。
「これを飲むと透明人間になれますよ。いかがですか?」
「いきなりそんなことを言われましても…」
「透明人間になりたくないですか?いろんなことができますよ〜」
「いろんなこと…」
大本は自分が透明人間になった妄想をしてみた。
卑猥な妄想をしたためか、眉毛がだらしなく下がる。
「あなたは今エッチな妄想をしましたね」
「は!?いえ!そんなことないれす!!」
「いいんです。人間は皆そうですから。このクスリをお飲みになるとその妄想がすべて現実になりますよ!」
「おぉう!」
大本は興奮したためか、変な声を出した。
そのクスリを手に入れれば、今した妄想すべてが達成可能だ。
「こちらの商品を日本円で300万円でお売りいたします」
「高いですね…。大学生じゃあ買えませんよ!」
社会人でもかなりの高額である。
「そうですか、それは残念ですね…むむむ!それは…!?」
商人は大本が身に着けているネックレスを見ながら話した。
「お嬢さん!そのネックレスすばらしいですね!そちらとこのクスリを交換でどうでしょうか?」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんですとも!」
大本は首からネックレスをはずして商人に渡し、代わりに透明人間のクスリを手に入れた。
「交渉成立ですね。ありがとうございます。ちなみに効果は約1週間ですよ。だいたい1週間透明人間でいられます」
「1週間ですね。わかりました。ありがとうございます。」
商人は深く頭を下げてお礼を言った。
大本は商人に別れを告げ、先ほどの駅へと引き返した。
「いいのかな300万円するクスリをあんな安物のネックレスと交換して」
大本が渡したネックレスは300円で購入した安物だった。
ここからまたあの時のように、謎の商品の騒動が始まるのである。
つづく。
最終更新:2010年11月06日 03:10