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Side-NOCCHI

朝、げた箱のフタを開けると、可愛らしいラッピングをした箱が転がり落ちて来た。
「おお~、人気者じゃん、自分♪」
正直悪い気はしない。女の子からきゃーきゃー言われるのって、くすぐったくて楽しい。
チョコは好きだし、バレンタインっていい日だね。
「大漁、大漁♪」とつぶやきながらチョコをかばんに押し込んでると、
「ふうぅ~ん。のっち、モテモテじゃねえ」
あたしは、おそるおそる振り返る。
あ~ちゃんが、にこっと笑って立ってた。にこっと笑っては…いるけど…ふわふわの髪が揺れてるのが、ネコが毛を逆立ててるみたいに見える時は要注意。
あ~ちゃんはちらっとあたしの方を見ただけで、あたしの横をすり抜けて階段へと向かう。

「あ~ちゃん!」
あたしが追いかけようとすると、くるっと振り返って、思いっきりよそ行きの笑顔で、
「のっちは東校舎じゃろ?遅刻したらいけんけぇ、早よ行きんさい。行こ、ゆかちゃん」
あ~ちゃんはくるりっと背を向けた。ネコがぺしっと尻尾をうつみたいに、髪のりぼんが舞った。
あ~ちゃんに背中を向けられると、あたしは見捨てられた気分になる。
「お姫様はご機嫌ななめじゃね」
ゆかちゃんはクスクス笑いながらあたしの肩をぽんってたたくけど、あたしにとっては笑い事じゃない。


あ~ちゃんは、休憩時間も全然遊びに来なかった。
いつもなら2時間目終わると「のっち~、早弁しよっ」とお菓子いっぱい持って来るのに。
東校舎と、あ~ちゃんとゆかちゃんのいる西校舎はちょっと距離あるから、少ししか一緒にいられないのに、それでもあ~ちゃんは来るのに。
休憩時間の度に、ひっきりなしに下級生達があたしのとこにやって来るけど、正直もうどうでもいい。
あ~ちゃんがいないと、あたしにはハッピーな日常なんて無いんだ。
きっとそれは砂糖の無い世界。あ~ちゃんの甘さに慣れたあたしは、アメ玉を取り上げられただけで泣きそうになる。


昼休憩になっても姿を見せないあ~ちゃんに、あたしは白旗降参。
のこのこと、みじめったらしい気分であ~ちゃんとゆかちゃんの教室に向かった。
「あ、のっち」
あ~ちゃんが笑って手を上げた。あたしはちょっと浮上。でもまだ油断出来ない。
…だって。あ~ちゃんの頭に耳が立ってるのが見える。こういう時のあ~ちゃんは残酷なくらい無敵。
「のっち、おいで」 あたしは自分でもしっぽ振ってるなあ、て思いながら近寄る。


あ~ちゃんとゆかちゃんの机の上には、りぼんを解かれた箱が二つあって。
一つはピンクの可愛い箱で、もう一つは黒のちょっと大人っぽい箱で。
そこには手作りっぽいチョコが入ってて。
あたしは嬉しくて、どくん、とした。「今ゆかちゃんとチョコのあげっこしとったんよ」
「二人とも手作りなん?」
「うん」
「のっちのは?」
「のっちにはあげん」
あ~ちゃんは歌うように、甘い声で言った。


「のっちにはあげんけぇ」
あ~ちゃんは上目使いに微笑みながら言う。
なんで。
なんでこんな時もあ~ちゃんの声は甘いんだろ。
「のっち、チョコいっぱいもらったんじゃろ?チョコ食べ過ぎるとニキビ出来るけぇ。あ~ちゃんはのっちの為思ってあげんことにした」
あ~ちゃんの、優しい、甘い声。でもそれは。あたしが欲しいものじゃなくて。
下級生達から貰ったチョコも。あたしの欲しいものはその中にはなくて。
あたしが、欲しい、ものは。
「…あ~ちゃん今日日直じゃけぇ、ノート提出して来る」


あ~ちゃんはすっと立って、あたしの脇を通って行った。「…のっち、眉すごい八の字」
ゆかちゃんがのんびりした声で言う。少し笑いながら、
「あ~ちゃん、ちょっとスネとんよ。可愛いじゃろ?」
「…可愛くない」
ほんとに、かわいくない。意地悪だ。あたしにだけ、いっつも。
「…二人とも、子供じゃけぇ」ゆかちゃんはおかしそうに言う。
「…ゆかちゃん」
「なに?」
「あ~ちゃんに伝えて」


あ~ちゃんは気まぐれで、甘ったれで意地悪で。砂糖菓子みたいに残酷な女の子。
でも、あたしが欲しいのは。
「放課後までに、貰ったチョコ、全部返して来る。…そう、あ~ちゃんに伝えて」
ゆかちゃんはクスっと笑って
「姫の機嫌はとっとくけぇ、頑張りんさい」
我ながら。情けない王子だけど。
あ~ちゃんのむちゃくちゃなワガママに応えることを思うと、楽しくて楽しくてしょうがなくなる。
あたしは、放課後のご褒美めざして、勢いよく教室を駆け出した。





最終更新:2008年10月10日 00:57