6時か・・・。
そろそろ戻らないと仕事もあるしな。
もうすぐ夏なのに外に出るとまだ薄暗い。
居心地の悪かったファミレスを出て家に戻る足取りはさらに重くなる。
あー・・・勢いとはいえ、ちょっと言いすぎちゃったよね・・・。
冷静に考え直したら、あたしめっちゃミキちゃんのこと庇ってたし。
きっとあ〜ちゃんからしたらおもしろくないよね。
でも、あ〜ちゃんが頑張れって言ったのに、あ〜ちゃんの為に頑張ってたのに、あんな言い方はなかったよね。
考えるの止めよう。
夜通し考えてもダメだったんだ。
眠い頭で考えたらもっとダメだ。
ここは素直に謝ろう。
あ〜ちゃんはああ見えてプライドが高いから、自分から謝るってなかなか出来ないから。
部屋に戻ると、ソファーにあ〜ちゃんがうずくまってた。
「・・・おかえり」
「ただいま・・・。もしかして、起きてたの?」
「あんな風に出て行かれたら寝れるわけないじゃろ・・・」
「昨日はごめん。言い過ぎた」
「ううん。あたしも言いすぎたから・・・。午後から仕事だからちょっと寝るね・・・」
戻ってきてまだ一度もあ〜ちゃんと目を合わせてない。
なんだか避けられてる気がする。
「あ〜ちゃん・・・」
「なん?」
ガッとあ〜ちゃんの肩を掴んでも、まだあたしの顔を見てくれない。
ずっとうつむいたままだ。
「ちゃんと・・・こっち見て?」
「なんよ・・・」
一瞬見てくれたけどすぐに逸らされた。
「ちゃんと、仲直りしよっ?」
「・・・した。じゃけぇ、もうええよ」
あ〜ちゃんはスルリとあたしの腕から離れてベッドに潜ってしまった。
なんかスッキリしないって思ったけど、これ以上問い詰めても昨日に逆戻りしそうだっだし、仕事の準備もしなくちゃいけなかったから、仕方なく家を出た。
かわりにまた置手紙を書いた。
『いってきます。
今日は事務所で仕事だから夕方には帰れます。
あ〜ちゃんは何時に仕事終わるのかな?
メール下さい。』
とりあえずシャワーを浴びてシャキっとしたつもりだけど、いかんせ徹夜明け。
とにかく眠い。
今日は事務所での雑務でよかった。
こんな状態でミキちゃんの担当なんてしたら、狂っちゃいそうだ。
「おはようございます」
「おはよー」
「タカコさん!!わっ、なんか久しぶりですねw」
「はは。そう言えばそうだねwミキちゃんの担当慣れた?」
「まー。ボチボチって感じですねw」
「はは。そうなんだwあっ、そうだ。社長が呼んでるよ?」
「へ?社長が?なんだろう・・・」
「んー、よく知らないけど。あ〜ちゃんのマネージャーの人がさっき来てたんだよね」
「え!?」
もしかして、最近のあたしの頑張りを認めてくれてあ〜ちゃんの担当にしてくれるのかな。
「おっ、大本!」
噂をすると社長が現れた。
「お前、第一会議室に行け」
「え?」
「なんだか知らんが、あ〜ちゃんのマネージャーがお前に話があるんだと」
「あたし、ひとりでですか?」
「うん。そうだよ」
「わかりました。いってきます」
んん?担当の話じゃないのかな?
あたしは若干の疑問を抱きながら、マネージャーさんに会った。
「あっ、遅くなりました。大本です」
「ども。マネージャーのヤマモトです」
あ〜ちゃんの言うとおり、かなり低い声の人だ。
たしかもっさんとか言ってたよな。
キンパツだけどかなりのやり手らしい。
「すいませんが、早速本題に入っていいですか?」
「はい・・・」
そういってもっさんはカバンから封筒を取り出した。
あれ?なんか怖いんですけど。
「これ・・・見てもらっていいですか?」
「はぁ」
それを渡されたので、中を確認すると一枚の写真が入ってたから取り出した。
「!?」
それを見た瞬間、あまりにも驚いたため声を失った。
なんでこんな写真があるの・・・。
それはあ〜ちゃんとキスしてるところを盗撮したものだった。
この前、映画デートした後で公園にいる時のやつだ。
メガネを掛けてても、明らかにあ〜ちゃんってわかる。
「あ〜ちゃんと一緒に写ってるのはあなたで合ってますよね?」
「は、い・・・」
「ルームシェアしてるのは、彼女から聞いていたんですが・・・」
「はぁ・・・」
「まさか、ふたりがそういう関係だとは驚きました」
「・・・すいません」
あたしは思わず謝ってしまった。
「いつから付き合ってるんですか?」
「・・・高校の、時からです」
「彼女たちのバンドは今が一番大事な時期なんです。わかりますか?」
「はい・・・」
「今こういうスキャンダルが出ると非常に困るんです。わかりますか?」
「はい・・・」
「特にあ〜ちゃんはバンドの顔として人気も一番なんです。わかりますか?」
「はい・・・」
「そこにこういう写真が世間に出回ってしまったら、バンドにとって致命傷なんです。わかりますか?」
「はい・・・」
「しかも今新しいCMが決まったばかりなんです。それがどういう意味かわかりますか?」
「・・・はい」
もっさんはまるで刑事のように尋問してくる。
あたしはまるで犯罪者みたいな気分。
「あの・・・この写真って、そういう雑誌とかに載っちゃうんですか?」
あたしは恐る恐る訊いてみた。
「今回はなんとかお金で、もみ消しました。思わぬ出費でした」
もっさんの重いため息が痛い。
「この写真、あ〜ちゃんは知ってるんですか?」
「まさか!絶対に見せれませんよ。見せたら、絶対に彼女に悪影響だ。わかりますよね?」
「はい・・・。わかります」
「そこで、あなたにお願いがあるんです」
「はい?」
「彼女のコトを本当に大切に思っているなら、今の関係を解消してほしいんです」
「え・・・」
それは、別れろってこと?
「よく考えてください。あなたたちが付き合ってるのは不自然じゃありませんか?」
不自然?
「あ〜ちゃんも女性。あなたも女性だ。それが知れたら、うちをライバル視してるプロダクションに真っ先に潰されてしまうんです。わかりますか?」
「・・・・」
「わかりますか?」
「・・・あたしが男だったら、よかったんですか?」
「よくはないですけど・・・自然だと思います」
元はといえばあたしが軽率な行動が起した問題だけど、それでも今のもっさんの言葉はショックだった。
あたしたちは今まで不自然な恋人だったの?
お互いが愛し合ってたらそれは自然な恋人じゃないの?
それがただ二人とも女ってだけなのに・・・。
あたしたちがよくても、世間はそれを認めてくれないの?
あ〜ちゃんが芸能人じゃなかったら平気だったの?
ダメだ。
辛すぎる。
今、あ〜ちゃんと会ったらどうしていいかわからない。
絶対動揺する。
また変な不安をさせちゃう。
あ〜ちゃんからのメールが着てたけど、家に帰れないよ。
一緒にご飯なんて食べれる状態じゃないよ。
あたしが向かった先はどういうことか、ミキちゃんの部屋だった。
「えっ!?のっち?どうしたの」
「うぇっ、うぇぇぇん、、、」
ミキちゃんの顔を見たら緊張の糸が切れたのか、さっきまで溜まってた色んな感情が涙となって流れ出した。
こんなに泣いたのは、あ〜ちゃんの屋上の手紙を読んだ以来だ。
ミキちゃんは何も言わずあたしを部屋に上げてくれた。
他人の前でこんなに泣いたのは初めてだった。
「なんか嫌なことでもあったの?」
今日のミキちゃんは初めてって言っていいほど優しい。
「あたし、のっちのためならなんでもしてあげるよ?」
ミキちゃんは泣きじゃくってるあたしを優しく抱きしめてくれた。
あたしはそんなミキちゃんに甘えた。
本当は現実から逃げたかった。
でもどうしたら逃げれるかわからなくて、わからなくて、一番最悪で最低な行動をとってしまった。
あたしは初めてあ〜ちゃん以外の人を抱いてしまった。
しかもあたしを好きって言ってくれてる人を。
あ〜ちゃんにもミキちゃんにも酷い事をしてしまったあたしは、やっぱり軽率な人間だった。
あ〜ちゃん・・・謝って許してもらえるなら、あたしは何十回も何百回も何千回も謝るよ。だから、、、
最終更新:2010年11月06日 03:34