最近のっちが変だ。
あたしのメールをすっぽかして以来なんか変だ。
でも今はツアーの真っ最中だから、正直のっちを気にしてる余裕はあまりない。
そして今日はホール会場の最終日。
まだアリーナが残ってるけど、やっぱり最終ってことでいつもより気合いがはいっちゃう。
「今日はどうしようか?」
メイクの斉藤さんはいつもこのセリフから始める。
「おまかせしますw」
あたしはいつもこう答える。
「じゃあさ、一度やってみたかった髪型やってみていい?」
「どうぞ、どうぞw」
斉藤さんはとても気さくな人。
最初タカコさんが担当外れちゃって嫌だなって思ってたけど、斉藤さんはしゃべりやすくてメイクの腕も良くて、新しい担当の人がこの人でよかったって思った。
そうこうしてるうちに斉藤さんはあたしの髪をポニーテールに結った。
「どう?」
「なんか新鮮ですwポニーテールなんて小学生以来かもw」
「絶対あ〜ちゃんはポニテ似合うって思ってたんだw僕の勘は間違ってなかったね!」
スタッフさんにもこの新しい髪型は好評だった。
あたしは写メで自分撮りしてのっちにメールした。
のっちも可愛いって言ってくれるかな?
公演が終わってホールツアーの打ち上げをスタッフさんたちと行った。
打ち上げで斉藤さんと隣の席になった。
「あ〜ちゃん、お酒飲まないの?」
「あんまり得意じゃないんですよw」
「そうなんだ。僕も実は弱いんだよねw」
自分のことを”僕”と言う斉藤さんは、優しいオーラを全開に放っていてなんだか癒される。
この人、絶対モテるわw
「いま、恋人っているの?」
「えっ!?」
突然の斉藤さんの質問に驚いた。
あたしはドキっとした。
どうして訊くの?
ドキっとしちゃったじゃない。
「い、いませんよ」
あたしがのっちと付き合ってるのはメンバーしか知らない。
マネージャーのもっさんも、タカコさんも、他の仲のいいスタッフさんにも、そのことは言ってない。
メンバーは高校時代からの付き合いだから信頼出来るけど、他の人たちは言っちゃうとあたしの元から離れていっちゃう気がして言えない。
「別に隠さなくてもいいよw僕はあ〜ちゃんの味方だよ」
そんな優しい笑顔で言われちゃうと、口が緩みそうで怖い。
「・・・なんで、そう思うんですか?」
「ん?だって、最近のあ〜ちゃん元気ないからさ」
やだ。
この人怖い。
怖いくらい人を見てる。
なんでわかったんだろう。
確かにのっちが変になってから、あたしもそれを気にしていつもの調子じゃない。
でもそれを見せちゃうと、メンバーにもスタッフさんにも迷惑と心配をかけちゃいけないと思って、元気にしてたつもりなんだけど・・・。
「仕事は上手くいってるから、他に心配の種っていったら、恋人くらいかなって。特にあ〜ちゃんみたいな、若い女の子だとねw」
「・・・相手が何考えてるのかわからないんです」
「あたしは頼ってほしいのに、頼りにされてないというか・・・」
「相手の仕事場に好意をもった人がいて、それが気になって仕方ないんです。心配いらないって言われたんですけど・・・」
あたしは斉藤さんの優しいオーラに負けて、今まで誰にも言わなかった胸の内をポツポツと話し出した。
「きっとその人はあ〜ちゃんに負担をかけたくないんじゃないかな?」
「そうですかねぇ・・・」
「一度ちゃんと話してみたらどう?」
「でもお互いに忙しくてなかなか時間がとれないんです」
「電話があるじゃない。10分でも1分でも毎日相手の声を聞くのって大事だと、僕は思うんだw」
「なんか・・・斉藤さんの彼女って幸せなんですねw」
「残念ながら”カノジョ”はいないんだw」
「えぇ!?そうなんですか?絶対いるとおもってた!」
「ははは」
「今夜、電話してみますw」
「あんまり相手を責めちゃダメだよ。あ〜ちゃん言いそうだからさw」
「気をつけますw」
あたしは斉藤さんに勇気と元気を持ってホテルに戻った。
そしてすぐにのっちに電話した。
『・・・はい』
わっ、初っ端からローテンションの声だ。
『寝てた?』
ホテルの時計を見ると12時半を回っていた。
『ううん。大丈夫』
『そっか』
『なに?どうしたの?今日ホール最終日でしょ?仙台だっけ?』
『そうそう。今打ち上げ行ってきたとこじゃけぇw』
『ふーん・・・』
あれ?なに全然会話に乗ってこないんですけど。
ダメダメ。
さっき斉藤さんに責めちゃダメって言われたばっかでしょ。
『そうだ!写メみてくれた?』
『あぁ・・・』
『どう?』
『すげー可愛かった。ポニーテール姿初めてみた』
『でしょでしょwだって小学生以来じゃもん』
『これやったの斉藤さんでしょ?』
あ・・・。
ヤバイ・・・。
地雷踏んだかも。
『のっちぃ・・・』
『・・・ん?』
『会いたい・・・』
『えっ』
『今すぐ会いたいけぇ・・・』
『っ、無理だよ。こんな時間に仙台なんて行けるわけないじゃん・・・』
あたしが言って欲しかったのは、そんな現実的な言葉なんかじゃない。
なんで「あたしも会いたいよ」って言ってくれないの?
『そんなんわかってるけぇ!』
あぁ、結局斉藤さんのいうコトきけなかった。
あたしはギャンギャンのっちを責めまくった。
仕舞には半泣き状態。
もうどうしようもない。
『あ〜ちゃん、泣かないでよ・・・』
『泣いてなんかない!!』
『泣いてんじゃん・・・』
『泣いてない!!のっちのバカ!!』
『・・・あ〜ちゃん、アイシテルよ』
『そんな感情の入ってないアイシテルなんていらないけぇ!!』
あたしは携帯を一方的に切って、壁に投げつけた。
待てども待てどものっちから電話はかかってこなかった。
もう本気であたしたち危ない所まできてるのかな?
最近は笑い合ってるよりも、ケンカの方が多くなってきてるし。
どこからおかしくなっちゃたのかな。
ただ負けないように毎日懸命に生きてるだけなのに。
のっち・・・あたしも愛してるよ。いまでも。だから会いたいよ。
最終更新:2010年11月06日 03:38