今日もまた、遅刻寸前で教室に入ると、目についたのは机に集まる人だかりだった。その姿さえ確認は出来なかったが、のっちはすぐに、人だかりの中心にいる人物があ〜ちゃんだとわかった。そして、聞き捨てなら無い言葉を耳にする。
「あ〜ちゃん、お誕生日おめでとー。」
よっこらせ、気だるそうに席に腰掛けた途端に、のっちの耳に届いた。思わず振り向くも、やはりあ〜ちゃんの姿は確認出来ない。チャイムと同時に担任が教室に入って来て、着席するよう注意をすると、やっとあ〜ちゃんの姿を確認出来た。あ〜ちゃんは、いつもと同じように笑っていた。
その日は、一日中、あ〜ちゃんのまわりには人が集まった。クラスの人気者で、男女問わず友達がいて、クラス内どころか他のクラスにも友達の多いあ〜ちゃん。そんなあ〜ちゃんの1年に1度しかない誕生日を祝おうと、休み時間ごとに教室には人が集まった。
のっちだって、タイミングを見計らって、おめでとうの一言くらい言えたらいいと思っていた。しかし、元々人付き合いが得意ではないのっちは、人だかりの中へ入り込んで、あ〜ちゃんに誕生日おめでとう、と伝えたところで、浮いてしまう、と思った。
結局、何も言えないまま放課後になってしまい、のっちは、教室を後にする。教室には、まだ数人の女子に祝われるあ〜ちゃんがいた。
のっちとあ〜ちゃんでは住む世界が違う。まだ活発に部活動が行われている放課後のグランド横をとぼとぼ歩きながら、のっちは考えた。
「…のっちぃー!」
のっちは、自分を呼ぶ声がして振り向いた。この名前で呼ぶひとは、ただひとり。
「間に合ったあ…。」
あ〜ちゃんは、息を切らしながらのっちの元に駆けてきて、のっちに追いつくと立ち止まり荒い息を整えた。
「一緒にかえろっ。」
「え?」
「だめなん?」
「…ってか! いーの?」
「何が?」
「今日、約束とか…あるんじゃないん?」
あ〜ちゃんは、くっきりとした二重の瞳をぱちくりさせながら、不思議そうにのっちを見た。
「…だから、誕生日、なんでしょ!」
あ〜ちゃんは、ああ〜、と、やっとのっちの言葉の意味を理解するも、今度はそそくさとのっちの前を歩き始めた。
「ねえ、ちょっと!」
「約束ならあるよ。」
ほら、やっぱり。
あ〜ちゃんが、背中を向けて歩いていてよかったとのっちは思う。自身でも眉毛が下がるのがわかるほど、ずん、と重く圧し掛かるあ〜ちゃんの言葉。
「のっちとケーキ食べる約束!」
くるりとあ〜ちゃんがまわれば、それにつられてスカートが風を纏ってひらひらした。あ〜ちゃんは、無邪気に笑っている。
「え、今、なんて。」
「だから、あたしの誕生日、祝ってよ。」
「なんで?」
「だって、ともだちじゃろ!」
眩しい。太陽がそんなに照らしているわけでもないのに、のっちは、あ〜ちゃんを眩しいと思った。きらきらしていて、目が離せない。まわりにいるひとを、和ませる力があるのだと思った。それは、のっちにはない、あ〜ちゃんのいいところ。
初めて出来たともだちが、のっちは、いつの間にかだいすきになっていた。
最終更新:2010年11月06日 04:00