あ〜ちゃんが引っ越して、二週間が経った。
あたしは実家に戻った。

結局、あの夜以来あ〜ちゃんと顔を合わせてない。
結局、自分の本当の気持ちを伝えることなく終わった。

だってああ言うしかないじゃん。
嘘つくしかないじゃん。

あたしと付き合ってても、あ〜ちゃんの周りの大人たちに迷惑かけるだけだしさ。

もうこれでいいんだよ。

これ以上迷惑をかけちゃいけないから、仕事も辞める。
元々、あ〜ちゃんのそばにいたいから始めた仕事だし。
その目的がなくなった今、ずっと働いててもしょうがない。

社長に退職届を提出したら、断られた。
何度も辞めないでって言われたけど、散々社長の命令を文句言わず聞いてきたんだ。
最後くらいそれに従わなくてもいいでしょ。

「・・・わかった。お前の決心は変えられないんだな」
「すいません」
「なにがあったかは詳しく訊かないが、辞めるならちゃんと仕事に区切りをつけてから辞めろ」
「はい?」
「今のミキの映画の撮影までは続けろ。それが終わったら辞めていい。それまでに俺が後任の奴を探しとくから」
「はい。色々すいませんでした」
あたしは謝ると、社長は苦笑した。

「いや、こっちこそ悪かった。お前に甘えて色々押し付けちゃって。それが原因で辞めるって言われてもしょうがないよなw」
「そんなことないです。辞めるのは社長のせいじゃないです・・・」
「フォローありがとなwそれよりもミキにはちゃんとお前から直接伝えろよ?」
「はい。わかりました」




翌日、スタジオでの撮影が終わった時にミキちゃんに辞めることを言った。
もしかして、泣かれちゃうかもしれないって思ってたけど、それはただのあたしの自意識過剰だった。

ミキちゃんは意外とアッサリ聞いてくれた。
もうアッサリしすぎるくらいに冷静だった。

「で、次の人はどんな人なの?」
「いや・・・まだ決まってなくて。今、社長が探してくれてます」
「ふーん。じゃあ、社長に言っといてよ」
「はい?」
「今度はあたしのことを好きになる子にしといてってw」
「えっ?」
「だって、あんた未練タラタラじゃん。あたしという、こんな良い女を目の前にしても、恋人のことで頭一杯じゃんw」

やっぱりミキちゃんは勘が鋭いな。
あたしの頭ん中筒抜けかよ。

「ホントに色々すいませんでした」
ミキちゃんに謝ったらほっぺを両手でつねられた。
「そのすいませんって、なんに対してよ?」
「ほえ?」
あたしはほっぺをつねられてるから上手く喋れない。

「別にあんたはあたしに謝ることなんて”一度”も、してないでしょ?」
「ほえ?」
「逆に謝るのはこっちの方じゃね?って感じなんですけどw」
「ほぇぇ」

「色々迷惑かけちゃってごめんね、、、」
ミキちゃんはもっと周りの人に素直になれば、もっと色々上手くいくって、今の顔を見たらそう思った。

きっとあたしが思ってる以上にあたしはミキちゃんを傷つけたと思う。
でも最後までミキちゃんは強気な女だった。

ミキちゃんが本当は思いやりがあって優しい人だって知ってるよ。
だから強気な女をあたしの前で演じてくれてたんだよね。

今度からミキちゃんが出演するドラマや映画は欠かさず見るから。
ミキちゃんがCMキャラクターになった商品は欠かさず買うから。
ありがとうミキちゃん。




夜になって事務所に戻ると、斉藤さんと鉢合わせをしてしまった。
わっ、気まずいって思ったけど、無視するのはいけないと思い軽く挨拶した。
そもそも斉藤さんはうちらの関係を知らないから、向こうは気まずくなる心配ないんだもんね。

「キミ、なにやってんの!」
「はい?」
えっ、なんで?
斉藤さんに怒られなきゃいけないの?

「本当にそれでいいの?」
「えっ?な、なにがですか?・・・は?いやいや、何言ってるか、全然わからないんですけど・・・」

「あ〜ちゃん、最近また元気ないから訊いてみたんだ」
「え・・・」

「そしたら、キミから別れを一方的に切り出されたって言ってたから」
「はぁ!?」
なんか斉藤さんの話が吹っ飛びすぎててついていけないんだけど。

「もちろん、あ〜ちゃんがキミと付き合ってるなんて一度も言ってないけど」
「じゃ・・・なんで相手があたしってわかったんですか?」

「同じだからだよ」
「おなじ?何がですか?」

「5年前の僕”たち”と同じだからだよ」
「はい?」

「僕もキミと同じなんだよ。僕の場合は相手が俳優だったけど」
「同じって・・・。もしかして、その俳優って、、、」

「そう。男だよ」
「えぇぇぇ!?」
思わず声を出して驚いてしまった。

マジで!?
だってタカコさんの話だと斉藤さんはモテモテで噂が絶えないって聞いてたんだけど。
そんなモテモテでも誰とも付き合ってなかったってことは、そういうことだったんだ。

「あ〜ちゃんのマネージャーに関係がバレて、別れろって言われたんでしょ?」
「なっ、、、なんでわかったんですか?」

「だから何度も言わせるなよw同じなんだよ。僕の時もそう言われたんだ」
「そうだったんですか・・・」

「僕も素直にそれに従ったよ。本当は別れたくなかったけど。彼の将来を思って、身を引いた。キミもそう思ったんでしょ?」
「はい」

「でもすごく後悔したんだ・・・」




それから斉藤さんは5年前の自分たちの出来事を話してくれた。
他の人と付き合っても結局その人を忘れられなくて、前に進めてないってこと。
その人のために別れたのに、その人の仕事が全然上手くいかなかったってこと。
でも自分から切り出したから、力になってやることもできないジレンマに苦しんでたってこと。

「そう、別れてからお互いに良い事なんて全然なかったんだ」
「・・・あたしたちも同じになるって事ですか?」

「それはわからないけど。少なくとも僕と同じ思いをさせたくないから、キミに忠告したんだよw」
「でも・・・。やっぱり、あたしは、、、あ〜ちゃんに迷惑かけたくないんです」
「そっか。まぁ、最後に決めるのはキミだからw」
「すいませんでした。に掛けてもらったのに・・・」
「いや。いいんだ。それにこの話しないと、あ〜ちゃんとの関係をキミに疑われても困るしねw」

そう言って柔らかく笑う斉藤さんはカッコよかった。
あ〜ちゃんは斉藤さんと付き合えば、幸せになれるんじゃないかって本気で思った。
でもそれは色々と無理だし。

やっぱり本当はあたしが幸せにしてあげたいし。
でもそれはやっぱり無理だし。

斉藤さんはあぁ言ってくれたけど、あたしの選択はやっぱり別れることしかないんだよ。
でもそれであ〜ちゃんが元気ないっていうなら。

あたしは、あ〜ちゃんの一番のファンだから。
応援してる人が元気がないっていうなら、あたしはファンとしての対応をしよう。

家に帰って、引き出しから何年も使ってなかった便せんと封筒を引っ張り出す。
それはあ〜ちゃんの好きなピンク色。

あ〜ちゃん・・・こんな形でしか伝えられなくてごめんね。あなたにあたしの気持ち届いてますか?






最終更新:2010年11月06日 04:03