よりにもよってツアー中にあんなスキャンダルが出るなんて。
事実無根の記事だけど、世の中の人は書かれたものは真実だと思ってしまう。

のっちがいなくなった今。
あたしの支えは、変わらずに応援してくれてるファンの人だ。
ファンに対して裏切り行為みたいなスキャンダルが出ても変わらずにいてくれる人たちがいる。

事務所にはたくさんの励ましのファンレターが届いている。
それを見ると色々と失いかけた自信を取り戻せる気がした。

あたしは一通ずつ大事に目を通す。
その中に気になる封筒があった。
あたしの好きなピンクの封筒に入ってる一枚の便せん。
普通ファンレターなら『大好きです』とか『ずっと応援してます』とか書いてあるんだけど、それの便せんは違ってた。

『なにがあっても負けるな。

あなたには歌がある。

あなたの歌を待ってる人たちがいる。

それを大切にして。

だからなにがあっても誰になにを言われても負けるな。

だから。

乗り越えて。

あなたの一番のファンより』

まるで詩のような抽象的な文章が羅列されてる。
一行づつ読むたびに、文字が滲んで上手く読めない。
気付いたらこの手紙を読んで涙がたまっていたから。

差出人の名前は書いてなかったけど、筆跡ですぐわかった。

のっちはきっとなんらかの理由であたしと別れないといけなくなっちゃったんでしょ。
それをあたしに悟られないように、嘘までついて別れようって言ったんでしょ。

ミキちゃんと付き合ってるって嘘でしょ?
ミキちゃんとヤッたって嘘でしょ?

そうでしょ?

そうじゃなきゃ、こんな手紙あたしに送ったりしないでしょ?

のっち、いいの?

あたし・・・期待しちゃうよ?
こんな手紙もらって期待しない方が変でしょ?




のっちにあたしの歌を聴いてほしくて、ツアーの千秋楽のチケットを送った。
来てくれるかわからないけど、あたしはのっちの手紙の返事を歌にして返すことにした。

初めて詩を書いた。
幼稚で下手な歌詞だけど、これが今のあたしの気持ち。
えっちゃんに曲をつけてもらった。

「えっちゃんありがとうw」
「いーえw時間なかったからちょっと荒削りだけど、ごめんね」
「ううん。そんな気にせんでw」
「それ、のっちへのラブソングでしょ?」
「・・・うん。あたしなりの精一杯の気持ち。伝わるか、わからんけど・・・」
「伝わるよ。絶対に!だって、あ〜ちゃんが歌うんだよw」
「てか、あたしこの歌歌ってええの?」
「ん?どして?」
「だって、こんな勝手なことしたら、もしかしたらもう活動出来んくなるかもしれんじゃろ?」
「あぁ。そういうことね。そんなん気にしないでよw」
「え?」
「元々このバンドはあ〜ちゃんが作ったものだし、あたしたちは十分夢見させてもらったから。あ〜ちゃんは自分のことだけ考えればいいよw」
「えっちゃん、、、ありがとう」
「千秋楽、上手くいくといいねw」

もしかしてあたしの知らないところで、あたしは色んな人に守られてるんじゃないかって思った。
それを知らなくて勝手に一人でもやってけるって考えがどこかにあった。

バカだな。
皆に迷惑や心配かけてるのに、自分のことしか考えてなかった。

のっちが最後に言った大人にならなきゃってこういう事だったのかな。
そうだね。そろそろ大人にならなきゃだね。
これが最後の子供じみた行動にするから、もう少しわがままさせて。

ツアー千秋楽。
場所は横浜アリーナ。
ライブDVD撮影も終わり、カメラも回ってないからみんな気分はユルユル。

でもあたしは一人緊張しまくり。
ちゃんとのっちが来てくれてるのか心配でしょうがない。

ライブが始まる。
あたしは会場の1万2千人を見渡す。
ライブ中はひたすらのっちを探した。
関係者席を見てものっちの姿はない。

諦めかけたアンコールの時。
スタンドの立ち見の場所でのっちらしき人物を発見した。
あたしは思わずまた歌詞が飛びそうになった。
もう一度見る。

あぁ、やっぱりのっちだ。
来てくれた。
泣きそうになった。




アンコール用の3曲を歌い終わる。
会場は温かい拍手に包まれてる。
本来ならその余韻をかみ締めて舞台から降りなきゃいけないんだけど。

「えっと、実はスタッフさんには内緒にしてたんですけど・・・もう1曲歌いたいと思います」
あたしはマイクを通して会場の人たちに話しかけた。
一気に会場の熱気が上がる。
すかさずイヤモニから監督の指示が入る。

「わー、ありがとうございます。あっ、今イヤモニから監督に「これ以上時間延ばすな」って怒られちゃいましたけど、強行突破しますねw」
それすらも、笑いにとる。
本当は余裕なんて全然ないけど。

「実は今から歌う曲はあたしが初めて詩を書いたものです。ある人を想いながら書きました。曲はえっちゃんにつけてもらいました」
会場がザワザワし出した。
あたしの心の中もザワザワしてる。

「あっ、その人は、、、その・・・あの、噂になった方じゃないです・・・」
そう言うとさらに会場はざわめきが大きくなった。
あたしは淡々と話してるけど手には汗ビッショリ。

「実は付き合ってる人がいるんです。・・・正確には付き合ってたんですけど」
こんな発言したらもっさんはじめ偉い人たちに確実に怒られる。
それでもあたしはここで言わなきゃいけないって思った。

「ここにいらっしゃるファンの方には裏切る行為かもしれません」

ここで言わなきゃのっちに本当の気持ちが伝えられないから。

「皆さんにも大切な人がいると思います。あたしもそういう人がいるんです」

「もちろん、皆さんの応援も大切です。でもあたしは正直その人の支えがなかったらここまでやってこれませんでした」

会場から小さいけどブーイングらしき声が聞こえた。
イヤモニからは監督の怒号。
それでもあたしはめげずに続ける。

「あたしはその人を失いたくないから、あの頃の気持ちと変わってないから、それを伝えたくてこの歌を歌います」

あたしは完全にアリーナを私物化してる。
解雇って言葉が脳裏によぎった。
それでもこれを歌わなきゃいけないと思った。
ここまできちゃったんだ。
やるしかない。

「では、聴いてください」

のっち・・・こんな形でしか伝えられなくてごめんね。あなたにあたしの気持ち届いてますか?





最終更新:2010年11月06日 04:14