バカだな。
なんであんなことしっちゃったんだよ。
あんなことしちゃったらあたしがした苦労が水の泡じゃん。

あんなでっかい横アリであんな告白しちゃってさ。
確実にファンが減ったよね。
確実に怒られたよね。

ホント、バカだよ。
あんな歌歌っちゃってさ。

感動して泣いちゃったじゃないか。
なんだよあれ。
すげーいい曲じゃん。

どうすりゃーいいのよ。
この気持ち。
もう捨てるって決めたのに。
捨てるに捨てれなくなっちゃったじゃんか。

ホント、どーすんのよ。

でもあんな酷い事言って傷つけちゃったんだ。
いまさらどの面さげて会えばいいんだよ。

てかね、会えないよ。
会えませんよ。
会わせてくれないでしょ。
そもそも会ってどうすんのよ。

やり直すの?
そんなこと出来んの?

いやいや、出来ないっしょ。
こんだけ色んな人を巻き込んじゃったんだ。
うちらだけ「元通りになりなした〜♪」・・・なんて、能天気に言えないでしょ。

でも・・・やっぱり会いたい。

あぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!



「彩乃ーーー!!いつまで寝てんの!!」
「起きてるよ!!」

あの千秋楽のライブから1週間。
あたしはあまり眠れてない。
あ〜ちゃんがあんな歌歌うからだ。
あの歌のせいで眠れない。

悶々とどうしようもできない気持ちが全身に駆け巡ってる。
あたしの中から抜け出してくれない。

「あんた、戻ってきたと思ったら家のこと全然やらないし。それでちゃんと、あ〜ちゃんと暮らしてたの?」
「してたよー。うるさいなー」
「じゃあ、家でもしなさいよ」
「お金入れてるからいいじゃん」
「なにそれ!あんたお母さんのこと家政婦だと思ってるの?」
「思ってないよ。めんどくさいなー」

実家に戻ってきたのはいいけど、毎日お母さんの小言がうるさい。
あ〜ちゃんとの暮らしが恋しい。

「で、あんた今日から新しい仕事場でしょ?こんなにゆっくりしてていいの?」
「だって、遅番って言われたんだもん」
「あんた本当にミキちゃんのメイクしてたの?嘘でしょ?」
「嘘ついてどーすんだよ」
「あっ、ほら。噂をすればミキちゃんよw」
テレビを見ると、ミキちゃんが写ってる。
炭酸飲料のCMだ。

ほんと、この間までミキちゃんと一緒に仕事してたなんて夢みたい。
あぁそっか。
きっとあ〜ちゃんと付き合ってたのも夢だよ。
すごくリアルな夢だけど。
だって、向こうはもうスターじゃない。パーフェクトスターだよ。



あたしは夢から覚めて現実を生きるよ。
さ、今日からまた美容室で働くぞ。

「こんな可愛い子が来てくれるなんて嬉しいわ〜。これからよろしくねw」
「はい。よろしくお願いします」
今度の所は給料は少ないけどオーナーは感じのいいおばちゃんだし。

「うちのお客さんはみんなおばちゃんなのよ。だから、あなたみたいな若い子がいると活気が出るわw」
「あははw」
商店街の中にあるからしょうがないよ。
こんな場所の美容室なんて、若い子嫌がるっしょw

カランカランとお店の扉についてる鐘がなった。
お店に入ってきたのは30代くらいのお母さんと10歳くらいの女の子。
なんだおばちゃん以外にも来るんじゃん。

「いらっしゃいませ」
髪を切るのはお母さんだと思って、イスに案内しようとしたら断られた。

「すいません。私じゃなくて、この子なんですw」
女の子はお母さんの後ろに隠れてモジモジしてる。
恥ずかしがり屋さんなのかな?

「ほら。自分で言いなさい」
お母さんに促されて渋々女の子は前に出てきた。
あたしは話しやすいように同じ目線になるようにしゃがんであげた。

「こんにちわw」
「・・・こんにちわ」
かろうじて挨拶はしてくれたけど、まだ警戒されてる気がする。

「ん!」
女の子がポッケから雑誌の切り抜きを出してあたしにくれた。
美容室じゃよくある光景。

渡された切り抜きを見ると、そこに写ってるのはなんと・・・。
「あ〜ちゃんにしてください!」

そう、あ〜ちゃんだ。

「この子、あ〜ちゃんが大好きで同じ髪型にしないと塾行かないって言うんですよw」
お母さんが困ったようにここに来た理由を教えてくれた。

「そっか。あ〜ちゃんのファンなんだw」
「うんw」
「じゃあ、お姉ちゃんが同じにしてあげるねw」
「うんw」
まさか、あ〜ちゃんのファンの子に会うなんて。
しかもこんな小さい女の子だし。




あたしはあ〜ちゃんの髪を綺麗に出来なかったけど、あ〜ちゃんのことを大好きな子をあ〜ちゃんみたく綺麗にするよ。

「あのね、あのねw」
女の子はこれから変身するってわかったのか、やたらとテンションが高くなった。
さっきまでモジモジしてた子と同一人物とは思えない。

「のんちゃんね、今度テストで100点取ったら、お母さんにあ〜ちゃんのライブ連れてってもらうんだw」
「へー、そうなんだ。じゃあ頑張って勉強しなきゃねw」
「うん。そんであ〜ちゃんに同じ髪型にしたよって言うの。うふふ」
言うって、どうやって言うんだよ。
そういう所がおこちゃまだよねw

「今クラスでバンドごっこ流行ってるんだよw」
「へー、そうなんだ」
しかしよく喋る子だな。

「でもね、いっつもあ〜ちゃん役は取り合いになっちゃうの。のんちゃんもやりたいんだけど、いっつもジャンケンで負けちゃうの」
「そっか。残念だね〜」

「でね、でね。のんちゃん、おっきくなったらあ〜ちゃんみたいな可愛くておもしろくて歌が上手い歌手になるんだ!」
すんごいキラキラした顔で楽しそうに嬉しそうに、あ〜ちゃんの事を話すのんちゃんを本人に見せてあげたい。
元々子供好きだから、すんげー喜ぶだろな。

「はい。出来たよ」
「わー、ありがとう。お母さん、あ〜ちゃんになったw」
新しい髪型になったのんちゃんは、嬉しそうにずっと鏡を眺めてる。

「のんちゃんは本当にあ〜ちゃんが大好きなんだねw」
「うん。大好き!お姉ちゃんは?」
「え?」
「あ〜ちゃん好き?」

「お姉ちゃんもあ〜ちゃん大好きだよw」

もうね、のんちゃんが引いちゃうくらい大好きだよ。
ずっとずっと前から好きで今も大好きだよ。

でもね、この気持ち捨てなきゃいけないんだ。
うちらはやっぱりこのまま、ずっと会わないほうがいいんだ。

あ〜ちゃんは歌うことでみんなに希望を与えてるんだ。
それをあたしが奪っちゃダメ。

あたしが我慢すれば丸く収まる。
もうこれ以上、あたしのことであ〜ちゃんを悩ますのは終わりにしよう。
もう一度きちんと話しよう。

ちゃんとバイバイ言わなきゃ。





最終更新:2010年11月06日 04:20