ショックだ。
まさかうちの高校が廃校になっちゃうなんて。

学校が事務所にFAXを送ってきて知らせてくれた。
どうやら、廃校が決定して落ち込んでる生徒たちを励まして欲しいので、校内でライブを行ってほしいって仕事の依頼だった。

もちろんうちらメンバーに断る理由なんてない。
もっさんもうちらの気持ちをわかってくれて、依頼を受けてくれた。

学校に来たのは、転校して以来だから5年以上前かな。
校舎も制服も変わってない。
懐かしい。
一気にあの頃の記憶が甦る。

のっち、元気かな?
一気にのっちへの想いも甦る。

「ゆかちゃん!」
「よっw」
久々に白衣着たゆかちゃんを見た。
やばい、懐かしすぎる。

「生徒にはあ〜ちゃんたちが来てるって知られてないから、誰にも見られないようにねw」
「うん。なんか全部が全部懐かしく感じちゃうw」
「ふふ。そう?あたしは毎日来てるから。わからんわw」
「はは。・・・てか、なんだろ。めっちゃ緊張してきたわ」
「なに言ってるんよw今度ドームでライブやる人がw」
「だって〜。学祭の頃思い出しちゃったんだもん」
「そっか。あっ!そうだ。このライブ終わったら、屋上来てくれない?」
「屋上?なんで?」
「ん?・・・んん。ちょっと、渡したいものがあるんよw」
「?うん。わかったw」

集会として全校生徒は体育館に集まった。
校長先生のながーい話が終わると、あたしたちの出番。

緞帳が上がると同時に、悲鳴に近い歓声が聞こえた。
たった2曲だったけど、すごく盛り上がった。

一緒に歌ってくれた子がいた。
盛り上げてくれる子がいた。
泣いてる子もいた。
あたしがやってることがすこし報われた気がした。




ライブが終わると、あたしはゆかちゃんに言われた通り屋上に上った。
でも、ゆかちゃんの姿は見えない。
見えるのは、澄み切った青い空。

懐かしいな。
てか、あたしここに来てから懐かしいしか言ってないかもw

よくここでのっちと一緒にお昼ご飯食べたな。
仲良くひとつのイヤホンで音楽聴いてたっけ。

のっちに宛てた壁の手紙まだ残ってるかな?
5年以上も前だし、さすがに残ってないよね。
てか、逆に残ってたら恥ずかしいし。

あたしは懐かしい気持ちを持って壁を見に行った。

「え」

もちろんあたしが書いた5年以上の手紙は残ってるはずなかった。
でもそこには新しい手紙が書いてあった。

『Aへ

この屋上の壁にこうやって書いても、あなたならきっと見つけてくれると思ってここに書きました。

直接顔見ちゃったら上手く言葉が出ないと思ったから、文字で伝えます。

最後までヘタレでごめんなさい。

まず最初に本当の事を伝えます。

実はある人にあたしたちの関係は不自然と言われました。

言った人は誰でもいいんです。

大事なのはうちらは世間から不自然って思われても仕方ない関係ってことです。

あたしは今まで自分でそう思ったことはなかったので、言われてショックでした。

世間を相手にしてるあなたに悪影響だと思い、別れを切り出しました。

ミキちゃんと付き合ってるって言ったのは嘘です。

ミキちゃんとヤったのは  事実です。

この事実は変えられません。

この事であなたはあたしを恨んでも仕方ないと思ってます。

謝っても簡単に許されると思ってないです。

これから時間を掛けて償います。

もし今回みたくまた人に不自然って言われたらまた誰かに甘えるかもしれない。

それを何度も繰り返しちゃうかもしれない。

正直今回の事があって10年20年ずっと一緒にいようって胸張って言う自信がない。

でも』




手紙はここで終わってる。
えっ続きは?
てか、ゆかちゃんはかったな。

「のっち・・・いるんでしょ?」
あたしが小さく呟くと、壁の向こう側からピョコっとボブヘアーの髪が顔を出した。

またそんな眉毛下げちゃって。

「ひさし、ぶり・・・」
「ゆかちゃんとグルだったん?」
「あたしから呼び出したら、来てくれないと思ったら仕方なくw」
そんなことないのに。

「ガッコ、なくなっちゃうんだって・・・」
「うん。知っとる」
「さっき、あ〜ちゃんが体育館で歌ってるの見てたら、学祭思い出して懐かしくなっちゃったw」
「見てたん?」
「うんwばれない様に上からね」

三ヶ月くらい会ってなかった、連絡も取ってなかったのっちが目の前にいる。
さっき読んだ手紙が起爆剤となって、あたしの目から涙が溢れ出てきた。

「別に、泣かそうと思って会ったんじゃないんだけどなw」
そう言いながらものっちはティッシュをくれた。

「だって、別れ話じゃろ。なんで、二度もそんな話聞かなきゃいけないん・・・」
「違うよ」
「なにが違うんよ。だって一緒にいる自信ないって書いてあったじゃろ・・・」
「うん。書いた」
「じゃあ、そういうことじゃろ」
「でも、それは先の話ってことだよ」
「言ってる意味がわからんよ」

「今のあたしはまだ先の未来を考える余裕も自信もないのは事実。でもね・・・」
フニャってのっちが笑う。

「明日の朝起きたらあ〜ちゃんがとなりに寝てて欲しいと思う」
「・・・」

「今日の夜あ〜ちゃんを抱きしめたいって思う」
「・・・」

「今日の夕ご飯一緒にカレー食べたいって思う」
「・・・」

「今その唇にキスしたいって思う」
「・・・」

「未来なんてわからないけど、一番大事なのは今どうしたいってこと。それじゃダメかな?」
「・・・カレーはさっき食べたから嫌じゃけぇ」
「マジかよ・・・。ぶははははw」
二人の緊張の糸が切れて、穏やかな空気が流れた。

「実はね・・・ここから始まったんだから、ここからやり直したいって思ったんだ」
ずっと手すりに寄りかかってたのっちが身体を起こして、あたしの手を優しく握ってきた。

「許されるならもう一度付き合ってほしい」
あたしの手を握ってるのっちの手は震えていた。

「あたしさ、やっぱり誰になんと言われようと、あ〜ちゃんを好きになったのは不自然じゃないと思ってる」
またフニャって笑うのっち。

「あ〜ちゃんに、ナチュラルに恋してたw」
「あたしもw」
「・・・キス、していい?」
「ナチュラルにねw」

お互いが恋してたらそれは自然なこいびと。

そうだよね、のっち。

— Fin —






最終更新:2010年11月06日 04:31