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あ〜ちゃんの誕生日を境に、日に日にのっちの中でのあ〜ちゃんは、大きくなっていった。寝ているばかりだった授業中も、以前より起きているようになった。つまらない授業内容も、黒板にまでの視界の中に、あ〜ちゃんがいれば楽しかった。
この気持ちがなにに当たるのか、のっちには判断出来なかった。しかし、前より確実にのっちの毎日が、輝いていた。


「のっちは、どこの高校行くん?」
「えー、決めてないよ。」


昼休み、いつしかふたりだけで机を引っ付けて食べるようになった。あ〜ちゃんと以前から親しくしていた友達には、「なんでなん。」と冷たい目で見られることもあった。のっちは、その度に内心ビクビクしていた。けれど、そんなこともあ〜ちゃんは気に留める様子もなく、「言いたい子には、言わせとけばいいんよ。それよりのっちはもっと自信持ちなさいや。」と見事に渇を入れられてしまったのだ。あ〜ちゃんの好きなところが、またひとつ、増えた。


夏休みが間近に迫った頃、のっちとあ〜ちゃんは進路の話をした。未来に希望を持ったことがなかったのっちには、当然のように夢がなかった。だから高校も行けるところに行けばいい、程度にしか考えたことがなかったため、あ〜ちゃんに尋ねられて、少しだけ動揺した。
一方あ〜ちゃんは、というと、のっちが「あ〜ちゃんは決めとるん?」と、聞くと、


「決めとるよー、北高!」


と、ぱあっと花が開いたように答えるものだから、のっちは危うく手に持っていた箸を落としそうになった。
北高といえば、県内でも有名な進学校。この辺りの高校でのレベルも、1,2位を争うほどだった。以前からあ〜ちゃんが勉強が出来ることも、先生からの信頼があついことも知っていたが、志望校が北高と聞いて、のっちは焦りを必死で隠そうとした。
あわよくば、あ〜ちゃんと同じ高校に行けたらいいな、なんて思っていたのっちの夢は、呆気なく散った。


「でもね。」


のっちが落ち込んでいることも知らずに、あ〜ちゃんは言葉を続けようとした。


「あたし、のっちと同じ高校に行きたいんだ。」
「えっ。」
「だって、せっかくのっちと仲良くなれたんよ? 高校も一緒に通いたいし。」
「……。」
「…いや?」


あ〜ちゃんの言葉が衝撃的過ぎて、のっちは固まってしまった。慌てて顔をぶんぶんと左右に振ると、あ〜ちゃんはくしゃりと笑う。


「よかった! じゃあ頑張って一緒の高校行こうねっ。」


それからというもの、のっちは死ぬ物狂いで勉強をした。両親は、そんなのっちの姿に初めこそ目をぱちくりさせ、「熱でもあるんじゃないの?」と心配していたが、次第に見違えるほど変わった娘を、心から応援してくれるようになった。





あ〜ちゃんと同じ高校に通いたい、その一心で勉強を頑張ったのっちは、見事あ〜ちゃんと同じ北高に合格。すぐにあ〜ちゃんに報告すると、あ〜ちゃんも心から喜んでくれた。これで春からもあ〜ちゃんと一緒だ。


喜ぶと同時に、受験を終えて、自分自身の変わりように気付く。両親に、変わった変わったといくら言われても、無自覚だった。けれど、“誰かのために”とか“誰かと一緒にいたいかいから”といったことでのっちは、自分自身を突き動かすことはなかった。初めてのことだった。そして、その“誰か”は、紛れもなくあ〜ちゃんだった。


だいすきだ、だいすきだ、大好きだ。
あのふんわりとした笑顔も、優しくて女の子らしい口調も、お花畑のような匂いも、丸みを帯びた身体も。全てが、のっちを突き動かす原動力となっている。


「のっちぃ?」
「…へっ?」
「明日で卒業じゃね。」
「あ、うん。」
「でもまあー、のっちとは高校でも一緒じゃけえ、そんな寂しくないわぁー。」
「そだね。」
「…ねえ、のっち?」
「ん?」


卒業を明日に控えたふたりは、思い出の詰まった教室の窓から見える、生徒たちを並んで眺めていた。


「…ずっと、あ〜ちゃんのこと、好きでいてね。」


どくん。
のっちの心臓は大きく跳ねた。思わず、あ〜ちゃんを見た。相変わらず、あ〜ちゃんは外を眺めていて視線をのっちに向けることはない。


「ずっと、あ〜ちゃんの傍にいて、味方でいて。」


のっちは、大きく息を吸った。


「約束するよ、ずっと好きでいる! あ〜ちゃん大好き!」
「もー、声がおっきいけえ、恥ずかしい。」
「へへへ。」
「笑い方が気持ち悪い!」


無愛想で、携帯電話と漫画がオトモダチ。友達は、ゼロ。家族なんか、友達なんか、そう思っていた。毎日が灰色だった。のっちが見上げれば、青空だって曇り空だった。
華が咲いた。のっちが眩しくて避けていた太陽を、思う存分に浴びた、華の放つ輝きは、雲を遠くに追いやった。
いつしか、のっちの心に雲はなかった。


のっちは、あ〜ちゃんに恋をした。恋を、した。






最終更新:2010年11月06日 04:33