消えん、よね…?
雲に隠された空みたいに。
風に飛ばされた花みたいに。
消えて、なくならないよね。
[ラブミー?]
よく、掴めないとかわからないって言われるけど、君ほどじゃないと思う。
よく、自由だとか一人で大丈夫だとか言われるけど、君ほどじゃないと思う。
よく、泣かないねって言われるけど、かしゆかほどじゃないよ。
少なくとも、のっちはそう思う。
「今、何考えてんの?」
言葉にしなくちゃわからないから、すぐに聞くのっちと、
「んー…なんだろ、ね?」
言葉にしないではぐらかすのが得意な、かしゆか。
「ね、のっちにも聞かせて?」
綺麗な髪とか、伏し目がちな瞳とか、大きな手だとか。表面上のことならば、もうわりと何でも知ってるから。
今度はもっと深くの。心より、さらにもっとずっと奥のほうを見せて?独り占めなんて、ずるいよ。
「今、ちょっと無理したりしてる?」
「…無理?」
「ちょっと、しんどい?」
「…」
「…のっちになんかできること、」
「自分が、」
「えっ?」
「…」
「…なに?」
「自分じゃ、なければ、いい、のに、な、、」
「…なんて、ね」
そう言って笑う姿が、小さくて遠くて。悲しくて寂しくて。
かと言って、簡単に抱きしめてもいいものか、ほんの数秒で考えたあげく、のっちの腕が動くことはなかった。
やっと見えたかしゆかの一部は、弱いくせに尖ってて。強いくせに脆かった。
でも、それでも、のっちは、
「かしゆかが、かしゆかじゃなくなったら困る」
尖って脆い、その心のずっと奥のほうを、のっちに見せて?
のっちはかしゆかみたいにかしゆかを、簡単には理解できないから。
ならば、教えて?言葉にして、もっとずっと深くに触れさせてくれないかな?
かしゆかは知らないんだ。
のっちがどれだけかしゆかのことを考えてるかも、どれだけ想っているかも。
だからそんなこと、言うんだ。
「かしゆか、のっち悲しい」
「えっ?」
「かしゆかには伝わってなかったみたい」
「…」
「かしゆかがいなくなったらのっちは困る」
「そんなこと、言わなくてもわかってると思ってた」
「そんな寂しいこと言わないで?」
「のっちまで涙、出る」
どうすれば伝わったのかな。
どうすれば、かしゆかの心のずっと奥のほうに届いたのかな。
好きだ、とか。愛してる、なんて。安易でチープだと思うんだよ。
でも、そんな言葉ですら、言わなくちゃ伝えられないんだ、のっちには。
のっちはさ、そうゆうの、口に出すことすら億劫で。求められたとしても頑なに口を閉ざしてたのかもしれないね。
でも、でも。ちゃんと心のずっと奥のほうで言ってたんだよ。
のっちの心のずっと奥のほうに、ちゃんとかしゆかが存在して。毎日毎日愛を語っていたんだよ。
だから、かしゆかの心のずっと奥のほうにも、のっちをおいてよ。
そしたら口にしなくても、かしゆかの中で、かしゆかにだけ、ちゃんと愛を語れるじゃない。
でも、それも無理、なんでしょ?
いくら頭をひねってみても、そんなことくらい無理だって、いくらなんでものっちだってわかるよ。
だから、
「好きだよ」
のっちは言葉にすることを選ぶよ。
「例えかしゆかが自分を嫌いになったとしても、」
だってそうしないと伝えられないならば、
「それでものっちはかしゆかが好きだよ」
言葉にするに、決まってるじゃんか。
「かしゆかの分まで、かしゆかのこと想うよ」
「馬鹿なこと、考える暇もないくらい、想うよ」
「愛してるよ」
今度は腕が言うことを聞いた。真っすぐ伸びた腕は、しっかりとかしゆかを抱きしめられた。
アザが残るほどに抱きしめて。満たされるために思い切り息を吸い込んだ。
かしゆかの匂い。大好きな、かしゆかの匂いが鼻をかすめ、だけど、一瞬で消えてしまった。
「!?かしゆかっ、」
「ん?」
「消えん、よね…?」
雲に隠された空みたいに。
風に飛ばされた花みたいに。
消えて、なくならないよね。
「愛してるよ、のっち」
end
最終更新:2010年11月06日 04:50