「改めて紹介するね。コレはあ〜ちゃんの分身の綾香」
「チョリース」

4人は西脇の家のリビングにいる。

「あ、あれだよね!?ちゃあぽんだよね!?お姉さんに似てきたなあ…」

大本が苦笑混じりに話す。

「違うんよのっち。コレはちゃあぽんじゃないんよ」

西脇は続けて話した。

「実はあ〜ちゃんは分身が出来るクスリを飲んだんよ!」

樫野と大本は驚く。

「そんなクスリがこの世にあるん!?」

樫野が口を開いた。

「まあ言っても信じられんだろうけど、ある女の人から分身が出来るクスリを買ったんよ!占い師みたいな黒い格好したお姉さんなんだけど…」
ブフォ…!

樫野と大本が揃って飲んでいたジュースを吹き出した。

(ハァ!?もしかしてゆかに催眠術のメガネを売ったあの商人さん…!)
(もしや、あたしに透明人間のクスリを売ってくれたお姉さん?)

「ゴホゴホ…」

大本と樫野は咽せている。

2人は自分が以前関わった商人が突然出てきたためにびっくりしていた。

「どうしたん2人とも!大丈夫?」
「あ、大丈夫大丈夫!」
「ちょっと引っかけただけだから…」

心なしか大本と樫野の額には冷や汗が流れている気がする。

「2人同時に吹き出すなんて、仲いいんじゃね」

西脇は無意識にそう答えた。

(のっちも動揺した!?まさかあの商人さんを知ってるの?)
(ゆかちゃんもなんか危ないグッズを買ったんかな?)

大本と樫野は互いに顔を向けたが、目があった瞬間すぐに背けた。

「本当はあ〜ちゃんは透明人間になるクスリを買おうとしたんよ」
ブフォ…!

今度は大本だけがジュースを吹いた。




「の、のっち!?」
「あ、ごめんごめん!(あ〜ちゃんもあのクスリ買おうとしてたんだ…)」

大本は動揺した。
このまま話が進展して、いつか自分の悪行がバレるのではないかと不安になってきた。

次にニセ脇が口を開いた。

「そうそう、その商人の女はいろいろな怪しげなモン売ってんだぜ!他には催眠術が使えるようになるメガネとか!」
ブフォ!

今度は樫野が吹き出した。

(ヤバいよ…ゆかが一時かけてたメガネの話題が出なければいいんだけど…)

樫野の顔が青ざめ始めた。

「ゆかちゃん大丈夫!?なんか顔色も悪いみたいだけど…」

西脇が心配そうに樫野を見つめた。

「あぁ…大丈夫よ…。気にせんといて…!」

樫野は気丈に振る舞った。

「そういえば気になったんだけど、なんで綾香はその商人さんのこと知っとるん?まだここに生まれてないじゃろ?」

西脇がニセ脇に問いかけた。

「ああ、あっしはクスリだった時の記憶も実は少しだけあっから。まあ本当に少しだけどね」

ニセ脇が西脇に返す。

樫野と大本は凍りついた。
ニセ脇が自分らが例の女商人から物品を買ったことを知っていたら、大問題に発展する危険性があるからである。

「あの〜ゆかはもう帰るからね…」
「あ…じゃあのっちも帰るれす!」

冷や汗まみれの2人が立ち上がった。
逃げる作戦を行使した。

「えっもう帰るん!?4人で晩御飯を食べようよ!綾香はめっちゃ料理うまいんよ!」

西脇は2人を引き止めた。

「な、ええじゃろ?綾香も準備するよ!」
「はぁ?やだよ。めんどくせーし」
「そんなこと言わんの!」
「わ、わかったよ…仕方ねーな」
「のっちもゆかちゃんもお鍋食べるよね?」
「う、うん…」
「じゃあ…そうしようかな…」

樫野も大本もニセ脇も、西脇の勢いに圧倒されて断れなかった。

その後4人は近所のスーパーへ行き、キムチ鍋の材料と酒を買いに出かけた。




「う、うめぇ!なんか味が全然ちがうんだけど!」

缶ビール片手に大本が感嘆の声を上げる。

「鍋はダシが基本だからな。ちょっと手を加えるだけでこうなるんだぜ」

ニセ脇がドヤ顔で答える。

「ねえ綾香ちゃん、ゆかにも料理が上手くなるコツを教えてよ」
「わりいな。コレは企業秘密だから教えられないんだわ」

樫野は目を輝かせて質問したが、バッサリと切られてしまった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

4人の鍋会が終わり、後片付けをして大本と樫野は自宅へと帰った。

「どうじゃ綾香。のっちもゆかちゃんもええ娘じゃろ?お友達になりんさいよ」
「ああ、ロングヘアーとショートヘアーか。まあ悪いヤツじゃねーな」
「なんであんたは上から目線なん!?」
「は、はいよ…そう怒るなよ…」

リビングに座りながら2人は話している。

カサカサカサカサ…

2人の近くを黒光りした昆虫が走っていった。
ゴキブリだ。

「キャーゴキブリ!スプレーを持ってこんと!」

西脇が殺虫剤を取ろうと立ち上がった。

「いやああああああ!ゴキブリ!!&±∞∴<≠♀¥℃*◇◎●£…」
「ちょっ!綾香落ち着いて!」

ニセ脇が大きく取り乱している。
近くに置いてあった座椅子を持ち上げて振り回し始めた。

「ゴキブリ出てけ!ぶっ殺すぞてめえ!!!」
「綾香うるさい…」

ニセ脇が吠え始めた。

西脇は暴走しているニセ脇を放置し、冷静にゴキブリに殺虫剤を当て続けて始末した。

「ほら綾香。ゴキブリはいなくなったよ」
「コホン…。あ、ありがとう…」
「ねえ?さっきはどうしたの?」
「ああ…あっしは虫は苦手なんだよ!」
「へぇ〜意外にかわいいところがあるんね」
「う、うるせぇー!もう飯作ってやらねーぞ!」

ニセ脇は料理の腕がある分、言葉遣いが悪く、虫に対する耐性が低い仕様らしい。

「ゴキブリが出たらこっちの身が持たんわ…」

西脇がひそかに呟いた。

つづく。





最終更新:2010年11月06日 14:14