「ねえ、今、光らんかった?」
「えー、光ってないよー。」
「光ったよ、見てよ、さっきより酷くなった!」
「んー?」
さっきからずっと。雨は降り続いている。
東京は、豪雨。激しくコンクリートを打ち付ける雨から逃げるように、のっちの家に逃げ込んだ。足元は、びっしょり濡れていて、のっちが歩けば床には、のっちの足跡が見えた。
さっきからずっと。かしゆかを家に呼んでおいて、のっちは携帯電話のディスプレイと睨めっこをしていた。
激しく振り続ける雨。窓に打ちつく雨。どれもかしゆかを不安にさせる材料でしかない雨は、目の前にいるはずののっちを遠い存在のように感じさせることが出来た。
のっちの身体を揺さぶれば、やっとのっちがかしゆかを見る。「どうしたの? ゆかちゃん。」何でもないような顔をして、かしゆかを見て。
「……こわいんよ。」
ぎゅ、っとかしゆかが握ったのっちのTシャツ。皺になった掴まれた部分を見たのっちが、かしゆかの異変に気付く。
「雨が怖いん?」
「ううん、」
かしゆかは首を振る。長くて美しい髪の毛、まだ湿り気を帯びて重くなった髪が、訴える。
「のっちがこわい。」
のっちは、驚いた。まさかそんなことを言われると思ってなかった。どうしていいのかわからなくなったのっちは、かしゆかを抱き寄せた。
「…のっちの、どこがこわい?」
「わかんない。」
「のっちのこと、嫌いになった?」
「ううん、だいすき。」
「じゃあ、なんで、」
「ゆかは、のっちのこわいとこも好きなんよ。」
ほら、今日の豪雨のように。
つかめないのっちを思う。いつ止むのかな、いつ降り出すのかな、のっちの愛を計る。
「だいすきだよ。のっち。」
もう一度好きだと告げて、かしゆかはのっちの肩に顔を埋めた。
最終更新:2010年11月06日 14:51