今日の予定が決まった日から本当に本当に楽しみにしていて
あたしは、本当に凄く楽しみにしてたのに
「遅いっ!」
思わず口に出てしまう。だって待ち合わせの時間はもうとっくに過ぎてる。
今度あ〜ちゃんと三人で夏祭りリベンジするから浴衣見に行こうねってあんなに楽しそうに話してたのに…。
久しぶりのオフでしかもデートなんだよ?
あたしなんて昨日は落ち着かなくって真夜中に部屋の模様替えまでしてしまったんよ?
…どんだけうきうきしとるんよ。なんかすっごい間抜けじゃ…。
いくらのっちだからってこんな日に寝坊なんてありえん…。
あたしばっかり楽しみにしてたみたい。恥ずかしくてなんか許せない。
じわじわと心が黒さで満ちていくのを携帯が遮った。
「…もしもし、のっち?」
『あ、ゆかちゃん?』
ん?
「のっち声どうしたん?」
『う?あ、風邪、ひいちゃったみたいでさぁ…』
「え、ほんまに?」
『うん、それで今日の予定はちょっと…』
「のっち今からそっち行くから!」
『今からって?いいけど…』
のっちの言葉も半ばに携帯をしまい急いでタクシーを拾う。
独り暮らしだからきっといろいろ困ってるはずだしなによりのっちが心配。
**
ゆかちゃんがくる。
そう考えたらそわそわと落ち着かなくてベッドと玄関を行ったり来たり行ったり来たりで…。
何往復もしたのにまた飽きずに部屋のドアを開けたらちょうど玄関に靴を揃えてるゆかちゃんがいた。
そういや鍵開けっぱなしだった…。
「ゆかちゃん、別によかったのに…でも嬉しいな。」
つい顔が綻ぶ。
「そんな幸せそうな顔してる場合じゃないでしょ。ほらほら」
ぐいぐいと背中を押されて部屋に押しこまれる。
「寒っ」
「あはは、それが朝起きたらクーラーのリモコンなくなっちゃっててさー」
「だからってなんでこんな寒いんよ?」
「昨日暑かったじゃん?だから早く部屋が涼しくなるようにって…んでいつの間にか寝ちゃって…
起きたときのTシャツのめくれ方がさ我ながらドキッとしちゃうような…」
はああって呆れ顔のゆかちゃん…まぁ仕方ない…。
「電源ならクーラーの本体にオンオフのボタンがあるでしょ?」
「そしたら部屋が…うち扇風機ないし…慣れたら快適だし…」
「もーつべこべ言わんの!」
***
のっちを無理矢理寝かせつけておでこに触れる。
大したことないみたいだけど一応温度計もくわえさせる。
クーラーをオフにすると切ない声が。でもそんなのは無視。
とりあえずやることをやって改めて部屋を見渡すと…自然と深い溜め息が出る。
「あのぉ〜」
「なに?ゆか忙しいの」
「もしかして、えっと…何をなさってるんでしょうか?」
「部屋のおかたづけ」
「のっちにもプライバシーというものが…」
「病人は寝る」
「…はい。」
こんな散らかった部屋でよく平気で過ごせるなぁ…。
本来は看病をするべきなんだけど見た感じのっちは思ったより元気だし
なによりこんな有り様見過ごせない。風邪じゃなくても何か病気になっちゃうよ…。
そういや台所も片付けたいって言ってたっけ…う、考えるのも恐ろしい。
ゴミゴミとした床に手をつける。
包装されたまんまのゲーム、なんかよくわからないチラシやら紙屑。
…なんでこんな溜めるんかねえ…
呆れながら手を進めると
ゴムで束になったポラがあった。
今までに取材受けた雑誌さんのだ…
あたしの、あ〜ちゃんの、のっちのは…ない。もう。
一瞬何でこんなゴミの中にと思ったけど次の瞬間には犬が宝物を土に埋めるシーンが再生されて
ちょっと笑ってしまう。流石に美化しすぎか。でもなんかのっちらしい
「なっなに見たん?」
「…大切な、骨?」
「は…?」
んーちょっとはマシになったかな?
あ。
「リモコン、あったよのっち。」
「ホント?」
「ほら」
「それ、チャンネルじゃない?」
「…え、違うよ。」
「ちょっとみして」
あたしだって流石にチャンネルとクーラーのリモコンは間違えない。
でものっちが変なこと言ったりこだわったりするのはいつものことで
言われるがまま、近づいてリモコンを見せる。
と、腕が素早く伸びてきてあたしはあっけなくのっちに抱きしめられる形になってしまった。
「…なんしよるん」
「ごめん、でもさ久しぶりに二人っきりだから
そりゃーもう、触れたくて触れたくてしょーがないし…」
「なんよそれ…」
正直なのっちの言葉。嬉しいような照れくさいようなで反発してしまう。
「もぉーちょっとでいいからさっ。病人には優しくしてほしいなー」
「はい、はい。」
適当な感じとは裏腹に高鳴る心臓。
だってこんなに密着したのはいつ以来だっけ、めちゃくちゃドクドクいってる。
のっちの安心しきった少し甘えた目がかわいい。
あたしのことを小悪魔ってよくいうけどのっちも自分の見せ方、よく分かってるよ。
少し熱を持った体は柔らかくて寒い部屋だと心地がいい。
もっと近づきたくて触れたくて思わず腕を肩にかける。
**
触れる体は相変わらず細くてしなやかで…
それだけでもいろいろちょっと、いやかなりキテるのに肩に腕をかけられて
久々に鼻をかすめた香りは前よりも刺激が強い気がする。
…もっと、もっと近くで感じたい…
でも、ちょっとって、約束だし、なあ…。ああ〜。
じわじわと心を満たすうずうずとした気持ち。
「…のっち、どうかしたん?」
視線を下げると目があって、見つめられるといよいよ駄目で
唇を重ねてしまう。触れるだけの軽いキス。
「ひゃっ」
やば、かわい…もっと声が聞きたい。
キスにびっくりしたのか肩に回る手に力が入る。
今にもクラクラしそうなのは絶対熱だけのせいじゃない。
抑えきれなくって手を伸ばす。
「っだめっ!」
服に手が触れるか触れないかで急に体を離すゆかちゃん。
「病人は安静に…ね!」
むー
「治ったもん」
「声、ガラガラ。」
「こんなのどうってことない」
今はもっと触れたい。のっちはそっちが大切なの。
「もう、だだこねないの!こじらせちゃダメでしょ?」
「…。」
固くなな態度がもどかしくって腕を絡める。
力じゃこっちが有利だから
捕えられてしまうゆかちゃん。そのまま抱き締める。
「もっと触れてほしくない?」
「…治ってからでいい。」
素直じゃないなぁ。
「そういやヒトに移せば治るっていうよねえ」
「移すつもりなん?」
軽く睨む目や尖らせた口が可愛い。ちゅーしたい。
無理するつもりはなかったけど、何か外れるのは簡単だった。
「試してみよっか」
「やぁ…んっ…」
いつもなら徐々に…なんだけど今日は最初から深く舌を潜らせる。
有無は言わせない。逃げる舌を絡めとる。
右手を服にかけると体が少し強張った。目には微かに抵抗の色。
でも全然、これならいける。
右手はそのまま服の中へ左手は首から頭に回して執拗に舌で攻める
ピンポーン
とろんとしかけた目がキラリと光った。
「のっ、ち…玄関っ!」
「どーでもいいよ」
息が浅くなってきていいところ。誰が止めますか。
ピンポーン
「んっ、…またっ。よくない、よ、っ…はあ」
「顔、赤いよ?」
潤んだ瞳で鋭く睨まれる。
ゆかちゃんはわかっているようでわかってない。
そういうのって逆に興奮する。
冷静なようでさっきから頭の奥がちりちり痺れて止まらない。
考えるのがまどろっこしい
ゆかちゃんをのっちでいっぱいにしたい。
**
何を言っても止めるつもりはないみたい。こういうのっちはあんまり好きじゃない。
強引で意地悪、でも逆らえない何かがあるから。
いつもより攻める手が早くて強気で
正直限界が近くなっきてて…堪えていて辛くなってくる…。
…あたしなんでこんな意地張ってるんだっけ。
もう、いいか…どーにでもなってしまえ
…もし風邪ひいちゃったら今度は移しかえすもん。覚悟しててよ、のっち。
そんなことを思いながら手を再び肩にかけようとしたら。
「あ、開いた…のっちぃー?入るよ〜?」
玄関から聴き慣れた甘い声…あ〜ちゃんだ!
「グヘッ!」
自分でも信じられない勢いでのっちを突き飛ばす。
ゴンって頭をぶつける鈍い音がしたけど…知らにゃいっ!
慌てて服を整える。深呼吸…深呼吸…
「おはようのっちー大丈夫なん?ってゆかちゃん。」
「おはよっあ〜ちゃん!」
「メールに返事がないと思えば…。もしかしてあ〜ちゃんはお邪魔だったりした?」
「…違うよ!あれ、あの、ピンポンが、壊れてて、気付かんかったんよ」
「ふぅ〜ん、まいっか。あ、のっち急に来ちゃってごめんね。
メール見たお母さんがさ、栄養あるもん持っていってあげんさいっていうもんじゃけぇ
んでいろいろ持たせてくれたんじゃけど、ほら病人なのにこーんな…頭痛いん?」
「ちょっと、ほら風邪でね…ハハ」
「思ったより元気みたいじゃね。これ冷蔵庫入れとくから」
「うん。ありがと」
**
「…はぁああ」
最悪だ…。
あと少し…!少しだったんだよ?
高ぶった気持ちはいまだに収まってくれない。
タチがわるすぎるよ…。病気が悪化したらどーする!
一息ついたゆかちゃんがこっちをみた。
「のっち、あ〜ちゃんにメールしてたのね。お陰で助かったけど」
「うん…昨日ちょっと用事が、ね…はあーぁ」
あ〜ちゃんが来たのは普通に嬉しい。あ〜ちゃんママの料理は美味しいからありがたい。
でもメールは失敗だった…ていうかそもそも風邪をひかなかったら…あああーあー
してもしきれない後悔が押し寄せて頭を抱える。
「…ね、のっちぃ」
不意に呼ばれて顔を上げると
「ん? …!」
一瞬の軽い感触
「あのさ、治ったら…別に、いくらでも…
えと、一日中…はちょっと、困るけど…あ、その…
あ〜何言ってんだろ、気持ち悪いっ!」
そっぽ向く赤い顔。
そんなに顔を真っ赤にするならしなきゃいいのに!
ていうか今、なんてった?そこっ重要だよ!?
なんか頭は沸騰しそうなくらいだし!ていうか心臓が苦しくなってきたし!
高ぶった気持ちも情けない後悔もどっかいったのに何故か絶賛悪化中だよ!
もうっ、どうしてくれるの?!何がしたいの!?のっちをどうしたいの!!
あー…ゆかちゃんって分かってるようで分かってないようで…!
もぉおーほんっとに!ずっるいよなぁあ…!
おわり。
最終更新:2008年10月12日 20:31