愛してる
その一言が
言えなくて
ベッドの上に寝転びながら、おもむろに携帯のメール画面へ文字を打ち込む。
今日レコーディングした新曲の歌詞が俳句調になっていたものだから、普段考える事も五・七・五で置き換えたくなって、試しに今の気持ちを枠にはめ込んでいく。
…ていうか、こんな事書くなんてどんだけ欲求不満なんよ。
そう思いながら、体勢を変えて大好きな彼女の方を向く。
目線の先の彼女は、
いつだって
ゲームに夢中な
ヘタレさん
もしもしヘタレさん、私と一緒に帰って来ておいて結局ゲームとかなんなんよホンマに。
恋愛について1人で憂鬱になってバカみたいじゃろ。
私は髪が伸びて丸みを帯びた頭に届くように声を掛ける。
「のーっち」
「んー?」
「あ〜ちゃんは何でのっちの部屋に居るんでしょーか」
「…のっちが誘ったからでーす」
「じゃあ誘われたあ〜ちゃんは何でこんなにも放置されているんでしょーか」
「…」
のっちの動きが止まった。
あ、ゲームの音もBGMだけになった。
「……」
うわぁ、すっごく気まずそうなのが背中でも分かる。
「………もうあ〜ちゃん帰
「…ごめんらさいぃぃ!!!」
泣きそうな声と共にようやく彼女が飛んできた。
このアホのっち。
「やっとですか大本さん」
「…お、お茶用意してたらこの前買ったゲームが視界に…」
「アホじゃろ」
「すんません…」
私に叱られすっかりしょげてしまった彼女。
でもそれを見ると、何故だか彼女を許してしまいたくなる。
甘いなぁ、私。
「…しょうがないけぇ、罰ゲームとしてあ〜ちゃんに対する気持ちを五七五で表しんさい」
「っうえぇ?!何その罰ゲーム!?」
「いいじゃろ別に!早くせんとあ〜ちゃん帰るよー」
「そっ、それはダメ!
…うーん…」
のっちは私の無茶振りに仕方なく指を折りながら言葉を編み出し始める。
「あ!出来たよあ〜ちゃん!」
「早っ!…とりあえず言うてみんさい…」
「いくよ?
大好きだ
あ〜ちゃんの事
…愛してる。」
「…ねっ、どうどう?」
「なっ…!?」
そう、いつだって。
私が出来ないと思う事を彼女は何事もなかったかのようにやってのける。
「…も、もうちょっと、ロマンチックな事言えんのん?!」
「えぇー…
こういう事にそういうのいらなくね?
のっちは、あ〜ちゃんの事を愛してる。
ただそれだけだよ」
こうやって、彼女はいとも簡単に、だけど真剣に愛の言葉を奏でて来る。
いつもはヘタレの癖して、やる時はやる。
こういう所は適わない。
「………あでぃがとぅ」
「うへへ」
「笑い方がキモい」
「だってあ〜ちゃん顔真っ赤で可愛いんだも〜ん♪
あ!ねねね、のっちに対する五七五はないの?」
「え!?」
なんと、まさかの展開。
「え!?って!あ〜ちゃんも持ってると思ったのにぃ〜」
そう言いながら口を尖らせるのっち。
「まぁあ〜ちゃんは色々考えちゃうからすぐには出来ないかぁ…」
…何い?
「あ…、あるに決まっとるじゃろ!」
「本当!?」
…ヤバ、つい負けず嫌いの性が出てしまった。
のっち…あるよ、しっかり。
あ〜ちゃんだってのっちの事大好きだもん。
でもあ〜ちゃんの愛は重いかもしれんよ。
”愛してる”なんてのっちみたいに簡単には出せんけど、ちゃんと伝えるけぇ、聴いてくれる?
そんな思いを込めながら、目を輝かせる彼女の手を握り締めて、俯きながらも紡いだ言葉を伝える。
五・七・五のリズムに乗せて。
あなたとね
歩いて行きたい
一生を。
END.
最終更新:2010年11月06日 14:57