季節が色をなくした。
そんな風に思っていたのに。
伸ばしかけた腕が次に掴んだもの。
そんなものないと思ってたのに。
季節が変わる度に風邪をひいて困らせる癖も。
伸ばした腕の行き着いた場所も。
何も変わってないよ。自分は、ここにいる。
あの頃と違う温度で、でも、あの頃と変わらない温度で。
いつも、ずっと、想ってるよ。
ねぇ、あ〜ちゃん。
幸せ、ですか?
何年か前に届いた薄紅色の封筒は、今でも引き出しの中にあるよ。
その頃抱いた感情も、その日流した涙でさえも、
全部、色あせないまま、そこにある。
あ〜ちゃんは言った。
「幸せに、なる」
その笑顔、眩しすぎてクラッときた。
可愛いな。ちっとも変わってないや。
そう思ったら泣けてきた。
生涯で、一番好き“だった”人が幸せになった夜。
のっちはちょっとだけ、泣いたんだ。
「「おめでとー」」
「ありがとう」
そう言ってあ〜ちゃんが笑うから、二人して笑ったけど。
のっちはうまく笑えていたのかな?
ちゃんと“さよなら”を言い合って、
それでまた出会って。
それなのに、なんで、こうも…
なんで、こうも、、胸が苦しくなるんかな。
そんな資格、のっちにはもうないはずなのに。
でも、やっぱり…
やっぱり、ちょっと、悔しい、な。
「早くお風呂入ってきなよー」
ベランダから見上げた空は、
あの頃と変わらず満天の星空で。
幸せな、あの頃と、変わらず。
のっちを呼ぶ声と温度は違うけど、
のっちはこの人をずっと大事に想うよ。
真っ暗闇だった夜空に、また、星が輝き出したのに気付いたのは、かしゆかのおかげだから。
ねぇ、あ〜ちゃん。
幸せ、ですか?
今夜は星がキラキラだよ。
あ〜ちゃんも見てるかな?
見てると、いいな。
そんで、『あぁ、のっちと見上げた空も、星がめっちゃ綺麗だったなー』なんて。
思い出してくれたら、嬉しいな。
「かしゆかー」
「んー?」
タオルで長い髪を拭きながら、トコトコと近付いてくる。
結局、色をなくしたのは、のっちだったんだ。
季節のせいなんかじゃない。
だって、出会ったのも別れたのも、春じゃんか。
薄紅色が目に染みたはずだよ。
そんで、ちょっと泣けたはずだよ。
「空、星めっちゃきれい」
「んー?」
パジャマのままでベランダに出て、空を見上げたかしゆかの横顔。
びっくりするくらいカラフルできれいだ。
大丈夫。のっちはもう、大丈夫。
後ろから抱きしめたら、素直に体を預けるもんだから、
ちょっとグッときちゃって、目頭あつくなった。
「きれーだねー。星めっちゃキラキラ」
「でしょー」
抱きしめた体はあっつくて、でもいい匂いがして、
二人の温度が溶けて混じって一体化しちゃいそうだよ。
「ねぇのっちー」
「んー?」
前を向いたままのかしゆかが、次の瞬間、空を見上げた。
「幸せに、なろーね」
つられて見上げた空は、やっぱり満天の星空だった。
「うん」
ねぇ、あ〜ちゃん。
互いが互いの幸せをはかれなくても、
願うことなら、出来るんだよ。
ねぇ、あ〜ちゃん。
幸せに、なろうね。
季節が色をつけはじめた。
伸ばした腕で、のっちは幸せを掴んだんだ。
END
最終更新:2010年11月06日 15:33