待ち合わせ時刻きっかりにホームに着いた電車から一番に降りる。

1分以内に着けばギリセーフ…なはずっ…!

人ごみをかきわけて改札を抜けたその時、すれ違ったそよ風が私の足を引き留めた。



…あっ、この匂い……お揃いじゃん、珍しいな……



アスファルトから立ち上る熱された蒸気。
人の汗。制汗剤。香水。
たばこ。食べ物。
そして、ほんの少しの葉や土。

鬱蒼としたこの都会にはいろんなにおいが入り交じっているけど、「この匂い」はいつも私の心臓を一瞬で掴む。


あー、爆弾を抱えてるの、味覚でよかった…
ってか人の「味」なんて一人しか知らないしな。
味覚がだめだから嗅覚が敏感なのかな?
って、犬かよ。



あ、やべっ!!





雑踏のにおいがする広場から陽のにおいがすると思ったら、そこで待っていた彼女が私を見つけて、少し頬を膨らませてみせた。


「おっそーい、一分遅刻!今夜は美味しい物ご馳走してよね!」
「ごめんごめん!なんでもご馳走します、お嬢様!」 


いたずら小僧みたいな笑顔で、彼女は機嫌良く私の手を取る。

先に足を踏み出した彼女の、翻したスカートと流れる黒髪が、「行くよ、のっち。」と言った。


その声がまた私の心臓を、今度はしっかりと掴む。


そうか、
さっきの匂いも、お揃いにしたくて同じシャンプーを使ってみた私の髪も、
何かが違うと思ってた。
そこには、君の匂いが足らなかったんだね。



ウインナーみたいな右手と大きな左手。
そして大好きな匂い。
私達は一つになれた気がした。


そのことがとても嬉しくて街の人に自慢したくなった私は、ゆかちゃんに並ぶぼうと、いつもより大きく足を踏み出した。


夏風に靡く二人の黒髪は今、同じ香りを纏っている。





最終更新:2010年11月06日 15:39