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「…最悪だ。なんもない…」


車を止めて辺りを見渡してみると、そこから見えた景色は笑えるほど殺風景だった。


「…いやいや。笑えないでしょ」


ってゆーかコンビニは?むしろ街灯は?
夕方なのに辺りは薄暗くて、とても“新しい部屋”を見つける気にはなれなかった。
それでもめげずに不動産屋を探すあたり、ゆかも強くなったもんだ。
ってか早く見つけないと。
悲しみに、浸ってる場合じゃない。
東京のお洒落なビジネス街でキャリアを積んでいたのに。
ちょっとしたミスから上司とぶつかって。それでこんな寂れた田舎街に転勤になったからって。
それを泣きながら伝えたのに、めちゃめちゃ嫌そうな顔した恋人が『じゃあ遠距離だね』って言ったからって。
悲しみに、浸ってる場合じゃないんよ。ゆかは。
この車のローンだって残ってるし。夏に向けて可愛いサンダルだって欲しい。
第一。生きて行くには仕事が必要なんだから。
悲しみに、浸ってる場合じゃない。
例え恋人が、「一緒に行くよ」って言ってくれなくても。嘘でもいいから、そう言って欲しかったけど。
当たり前みたいな顔で、『遠距離だね』って言われても、
悲しみに、浸ってる場合じゃないんよ。





初めてこの街にきた時から、三日。
部屋も決まったし、今週末には引っ越し。




「あれー?ゆかちゃん週末だっけ?」
「そうだよ」


テレビを見ながらボケッとした口調で聞いてくる。
離れたく、ないなぁ。一緒に、来てくれればいいのに。


「なかなか会えなくなるね?」
「んー?そーだねー」
「淋しく、ないの?」
「ん?淋しいよー?ゆかちゃん淋しくないの?」


淋しいに決まってるじゃん。
決まってるじゃん。何なん。決まってるじゃん。


「それなら…一緒に来てくれればよかった、じゃん」


仕事だって基本パソコンでしょ?
たまに会社に顔出す程度で、在宅じゃん。一緒に来てよ。


「んー?だってリウさんいるしさー」


そう言って足元の黒猫を撫でた。


「ここ離れらんないよ。ごめんね?」


ちっとも悪くなさそうに笑ってみせた。


「…ううん。いいんよ。メグさんの好きにして。」


そんな顔見たら何も言えんよ。
ずるいな。年上のくせして甘えるのが上手で。
きゅんってして、何も言えなくなるよ。






最終更新:2010年11月06日 15:46