「・・・で、俺は何をすればいいの?」
「慰めてよ」
「慰めて、、、だと?・・・彼女でもないのに、勝手に人んちに上がり込む奴に慰めの言葉なんて思いつかないね!!」
「彼女だったら勝手に上がりこんでいいの?」
「・・・大本さん。着眼点間違ってるよね?」
完全にあたしを白い目で見てる中田くん。
「大本さんはガキなんだよ」
「あの・・・慰めてって言ったよね、さっき」
「自分の気持ちばっかり相手にぶつけてどうすんだよ。思いやりがねーよ」
『思いやり』
中田くんの口からそんな言葉が出るなんて思いも寄らなかった。
「樫野さんの立場になって考えてみろよ?」
「ゆかちゃんの?」
「そうだよ。自分の好きな人は兄貴の婚約者で、友達に告られてちゃんと断ったのに、そいつにすげー責められたんだぞ?」
あ・・・。
「ねぇ、中田くん」
「あ」
「もしかして・・・あたしって、すげー酷いことしちゃった?」
「いまさらわかったか。バカめ」
「ど、ど、ど、どうしよう!!どうしたらいい?ねぇ、中田くん!?」
あたしは必死に中田くんの肩にしがみ付く。
「と、とりあえず、放せ!」
「あ。ごめん」
「大本さんはどうしたいの?」
「へ?」
「樫野さんとはどういう風に関わっていきたいの?」
「うー・・・。出来たら付き合いたい」
「でも、無理だろ。向こうは大本さんのこと、そういう対象で見てないんでしょ?」
「そうです」
「じゃあー、今まで通りに友達?それとも絶交?」
「絶交だけは嫌!!それだけは嫌だ!!」
「じゃあー、それを相手に伝えればいいんじゃね?」
「どゆこと?」
「もー。頭の回転わりーな。とりあえず謝れ!自分の非を認めろ!後は自分で考えろ!そろそろ俺離れしてくれ」
謝る・・・。
ていっても、そんな簡単にいかないよ。
だって話し掛けようとしても無視されるし。
メールしても返信こないし。
あーあ。
ウダウダしてて、気付いたら夏休み前日になってるし。
もう、ほんとにヘタレな自分が嫌。
成績もイマイチだったし。
どうすんだ。
「のっち!!」
ひとり寂しく帰ろうとしたらあ〜ちゃんに呼び止められた。
「はい?」
「もー、シャキっとしんさいよ!夏ばてはまだ早すぎじゃろw」
ゆかちゃんはこの人が好きなんだよなって改めて思った。
「ゆかちゃんとなんかあったん?」
「え?」
「最近一緒にいるとこ見とらんけぇ。ゆかちゃんに訊いても、なんもないの一点張りなんじゃけど」
「あぁ・・・。ちょっと、あたしが怒らせちゃったんです」
「なにしたん?」
「ゆかちゃんの・・・弱い部分を刺激しちゃったんです。それでちょっと・・・」
あたしはわざとあ〜ちゃんの目を逸らさずにまっすぐ見つめて伝えた。
その行動が伝わったのかはわからないけど。
「そう、なんじゃ・・・」
あ〜ちゃんの声のトーンが低くなったのは確か。
「のっちはさ、やれば出来る子だと、先生は思っとるんじゃけど・・・」
「え?」
「ひとつお願いしてええ?」
「あたしに出来ることなら・・・」
「きっとこれはのっちにしか出来んと思う。だから二人を同じクラスにしたんだからw」
「え?」
「ゆかちゃんを17歳にしてあげて」
はい?
あ〜ちゃん、この暑さでやられちゃった?
だってうちらはみんな17歳だよ?
「先生・・・言ってる意味がわからないんすけど・・・」
ふふって笑うあ〜ちゃんの首筋から一筋の汗が流れた。
「あの子は13歳のままなんよ」
「はい?」
「だから、のっちがゆかちゃんの止まってる時間を動かしてあげて」
「13歳になんかあったんですか?」
あ〜ちゃんは困ったように笑ってこう言った。
「あたしと初めて出会った歳」
あ〜ちゃんはゆかちゃんが自分のこと好きなこと知ってんの?
あたしがゆかちゃんのこと好きなの知ってんの?
自分がゆかちゃんを助けてあげられないから、ゆかちゃんを好きなあたしにそんなこと頼むの?
と、色々訊きたかったけど訊けなかった。
それ以上あ〜ちゃんは何も言わずに、涼しい職員室に戻っていった。
蒸し風呂みたいな教室に取り残されたあたしはどうしたらいいんでしょうか。
好きな人を怒らせちゃう自分勝手なあたしが果たして助けることなんて出来るんでしょうか。
そもそもどうやって助けたらいいんでしょうか。
中田くんに相談したいけど、中田くん離れしろって言われたばっかりだし。
高校最後の夏休み。
あたしはかなりの難題の宿題を渡されてしまった。
最終更新:2010年11月06日 16:15