Side A
ゆかちゃんがあたしの部屋を出て、あたしが寝ようとベットに入ると、ドアを誰かがノックする音が聞こえた
部屋の外に設置されている小型カメラの映像を見ると、リニアの部屋で室長として仕えているタカシゲが立っていた
のっちに何かあったのかと思って、急いでドアを開けた
「ご就寝されるところ、申し訳ありません」
「いや、構わないが、、どうした?」
「少し、お伝えしたいことがございまして、、」
「、、のっちのこと?」
「…はい。今、リニアの部屋まで宜しいでしょうか?」
「ぅん」
『証』を手に、タカシゲの後に付いて、リニアの部屋へ向う
初めて入る、地下への扉
階段を降りるともう一つ、今度はリニアの部屋の扉が開いた
のっちが、、いる部屋
ほとんどが、初めて見る装置らしきもの
そこで一番に目が行くのはやはり、エネルギーが蓄えられている巨大な容器の中
青白く光るエネルギーが、渦巻いている
少し中へ進んで、透明な壁の手前までくると
「陛下、あそこです」
タカシゲが示す先を見るとそこには、白く輝く、、
「のっ、ち?」
私は、その姿に、言葉を失った
確かに『覚醒』している姿を見るのは、初めてではあったけど
それよりも、細く痩せてしまったその姿に、何も言うことが出来なかった
「もう、1ヶ月近く夜もああやって『覚醒』しているんです」
「え?」
「理由は解らないのですが、ダンスをしなくてもエネルギーを生み出してしまうほど、何か強い想いを持っているようなんです」
確かに本来ならば、ダンスをして生み出されるはずのエネルギー
でも、その時ののっちはただ立っているだけで、エネルギーを生み出していた
「食事もしてはいるのですが、あのエネルギー量を考えますと、、いずれ身体に限界がきてしまいます…」
「それって、のっちが倒れちゃうってこと?」
「、、はい」
「何で、、今まで誰も教えてくれんかったの?」
ヤスタカもゆかちゃんも、のっちのこの姿を見てるはずなのに…
「それは、、アヤノ自身が皆に口止めしていたんです。陛下にはお伝えしないでほしいと」
「のっちが?」
「はい、、。今、陛下が一番大変な時だから、陛下の負担を増やしたくないからと…。陛下と一緒に頑張るんだと…。しかし、自分にはもう、見ていられなくて、、」
泣きそうになった、、いや、泣いていたのかもしれないけど
「なんでなん、、のっち」
悔しかった…
のっちに無理させて、それに気付きもしないで
これで女王だなんて、情けなくて情けなくて…自分に腹が立って仕方なかった
「のっち!」
ドン!と透明な壁を叩くと、あたしたちに気付いて、ゆっくりこっちを向いたのっち
その瞳は怖いくらいキレイで、、でも、まるで何も映らないような、そんな印象を受けた
「のっち、もう夜じゃよ?夜は寝る時間じゃろ?じゃけぇ、、」
「…」
途中でのっちの口が動いたけど、全然聞き取れなくて…
のっちの視線はまた離れていった
「タカシゲ!ココ開けて!」
のっちの側に行かなくちゃ
「それは出来ません。陛下」
「なんで??」
「覚醒中にこの中に入るのは危険です!」
「危険でもなでも構わんけぇ!開けて!」
今、行かなくちゃ、のっちを止めなくちゃ
「しかし…っ」
タカシゲは、なかなか了解してくれなくて、それだけ今この中が危険だということなんだけど、、
それでも、、
「タカシゲ!開けなさい!」
この時は、引こうなんて思わなかった
「…分かりました、、しかし、危ないと思ったら、すぐに引き返して下さい」
「…分かった」
タカシゲが扉の機械を操作して、入り口を開けてくれた
それと同時に、あたしはのっちがいるその場所へと、足を踏み入れた
入ってすぐに、大きな力を感じたけど、それくらいでたじろいでる場合じゃない
のっちに近づくにつれて、空気が震えて、肌がぴりぴりしてくる
っ!!
腕に痛みが走って、反対の手でそこを押さえた
「陛下!」
掌に少しだけ血が滲んでいた
「大丈夫じゃけぇ、、」
のっちはすぐそこだ
「のっち!」
もう一度呼ぶと、またコッチを見てくれたのっち
「あ〜ちゃん…」
「のっち、もういいけぇ。覚醒解きんさい!」
「、、ダメなんよ」
「なんでよ?」
「世界を、想わんと…」
その細い身体に、、どれだけの責任を背負っていたんだろう?
のっちだって、14歳の女の子なのに、、
もっと早くに、気付いてあげたら、少しは違った?
「そんなんいいけぇ」
のっちに手を伸ばすと
「良くない!」
っ、っ、、
のっちの感情と一緒に、空気も鋭くなり、頬と腕にまた痛みを感じる
それでもあたしは、のっちを抱きしめた
「あ〜、ちゃん…」
ぎゅってすると、空気の震えが弱まって
「のっち、ごめん。ずっと、独りにして、ごめんね?」
「ぁ、ちゃ、、っ」
おずおずと背中に回されたのっちの腕が、痛いくらいぎゅっと抱きしめてきて、その場に座り込んでしまった
必然的に、あたしも膝を突いてる体勢で、のっちの背中や頭を撫でた
あたしが両親のことで泣いてしまった時、ゆかちゃんがしてくれたように、優しく撫でていく
その時には覚醒も解けていて、空気も鋭さをなくしていた
「陛下、、」
タカシゲの声に外をみると、不安げにこちらをうかがっていて、だからあたしはニコッとして大丈夫だということを伝えた
それを見てタカシゲも、ほっと安堵の表情を浮かべた
「今夜は、この部屋で眠るから」
「それは、、」
「こんなのっちを、一人に出来ないであろう?」
「、、そう、ですね」
「ふふwタカシゲもそこに居てくれるんでしょ?」
「もちろんです!」
「じゃあ、何かあったらすぐに呼ぶから」
「はい、解りました」
あたしにしがみ付いて泣いていたのっち
ヘッドフォンを外して、ベットまで連れて行く
「今日は、あ〜ちゃんココにいるけぇ、安心して寝んさい」
「ぇ、ええの?」
二人でベットに入って、のっちの手を握って言うと、まだグスグス言いながら、遠慮気味に聞いてきて
「良いに決まっとる」
「けど、あ〜ちゃん明日も忙しいじゃろ?」
「そんなん、なんとかなるけぇw」
「部屋で寝た方が良いじゃろ?」
「今はのっちと居たいんよ…」
「…」
あたしがそう言うと、お得意のハの字眉で
小さな声で、ありがとって言ってくれたのっち
「とにかく、今は寝んさい。また今度、ゆかちゃんと来るけぇ。そん時、話とかしよ?」
「…ぅん」
ぎゅっと、手元のぬいぐるみを抱きしめて、のっちは目を閉じた
「おやすみ」
「ぅん、、」
これからは、、
ちゃんとのっちに会いに来よう
そう、自覚した日だった
それから、のっちに無理なんてさせないような
父のようにりっぱな王に、早くなりたいって、思った
眠りに就いたのっちに一安心して、あたしも眠りに就いた
けど、目を閉じた後も妙に、のっちの言葉が頭に残っていた
『世界を、想わんと…』
のっちが、他に何を想っていたのか
この時は、まだ知らなかった
—つづく—
最終更新:2010年11月06日 16:23