「いらっしゃ、あ!こんばんわ」
「こんばんわぁ」


この街には何もない。
退屈でしょうがないゆかは、今日もまたこの店にコーヒーを飲みにきた。
都会に住む恋人は、電話も繋がらないし、メールも返ってこない。
でも、淋しさを紛らわすものが、この街にはない。
だからゆかは、今日もここにきたんだ。


「あ、ラテを。濃いめで、お願いします」
「はい、かしこまりました」

まだ店内はすいていて、ゆかは昨日の席へと足を進めた。







「あ!」


まだ時間も早いのに、その席に座る人がいた。
先客か。その席、気に入ったのにな。
ゆかが昨日座ったのとは反対の椅子に座って、
ゆかが昨日したみたいに、その人も窓の外を眺めていた。

「え?」


ゆかの声に振り向いたその人と目が合う。
うっわ…なんか、めっちゃ……


「あの、、なに、か?」
「あ、いえ、あの…」


「あー、大本さん…


ゆかがあたふたしてる間に、マスターが出てきてゆかを紹介してくれた。
この子昨日ね…
この席に座って…
あー、ちょうど大本さん帰ったあとで…
ラテを、飲んでね…



「…で、名前は何さんでしたっけ?」


「え?あ、はい!樫野です。樫野有香」


マスターの説明が終わると目の前のその人は、警戒していた顔を崩して、「そーなんですか」って、ゆるく笑った。


「こっちは常連の大本さん。二人は同い年くらいじゃないのかな?」
「あ、そうなんです、か?え、今いくつですか?」
「今年、25になります。樫野さんは?」
「あ、私も!12月で。じゃあ、同い年ですね」
「ふふ、うん。あ、よかったら」


そう言って目の前の空いてる席に手を伸ばしてくれた。
これは……マスターに感謝しなくちゃな。うん。
こんな、なんか、うん。
綺麗な人、いたんだ。
こんな、田舎街にも。






最終更新:2010年11月06日 17:30