あの日を境に、確実に綾香と彩乃は距離を縮めていった。ライブがない日でも、二人で、会うようになった。
「でさ、意味わからん、それ、おかしいけぇってちゃあぽんに言ったら、お姉ちゃんの方がおかしいよって言われたんよ!?」
「それはぁ、あ〜ちゃんがおかしいよ。」
いつしか、綾香にとって彩乃は心の支えになっていた。くだらない話を嬉しそうに頷きながら聞く彩乃を見て、綾香は満足していた。
「あ、すいませーん。苺パフェ追加でー。」
「えっ? まだ食べるん?」
綾香と彩乃の住む街は、離れていた。学校終わりに、中間地点である、ライブハウス付近のファミリーレストランで語り合うのが、日課となっていた。しかし勉強もしないで遊び歩いていると、親から雷が落ちるため、空になった食器の横には、問題集を広げて。
二つ目の苺パフェが届いた頃、彩乃が思い出したかのように話を切り出した。
「前から言おうと思ってたんだけどさ。」
「ん?」
新しく目の前に置かれた苺パフェを、一口、ぱくりと頂くと、スプーンを口に咥えたまま、綾香は彩乃を見た。一方、彩乃は、オレンジジュースをぐびっと飲んでから、話し始めた。
「あ〜ちゃんとあたし似てると思う。」
彩乃は何を思ったのか、そのようなことを言い出した。綾香は、突拍子もないことを彩乃が言い出した為、眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「……のっちと、あたし、どこが似とるん?」
思い返しても、似ているところなど、綾香には思いつかなかった。性格も身なりも、どちらかと言えば、正反対だと思っていた。
「根本的なところが似てんのかなあ。」
「んー、全くわからん。」
「いや、あ〜ちゃんこう見えて結構孤独じゃん。」
ぱくぱくぱく。彩乃の話の意図が掴めず、興味をなくしかけていた綾香だったが、その言葉に動きを止めた。
「そういう孤独がのっちは、わかるから、あたしが、報ってあげなきゃ、って思う。」
その言葉を聞いた途端に、綾香の目からぽつりと零れ落ちた、涙。
彩乃は、それを見た途端、目をきょろきょろさせ、慌てた様子で何度も綾香に「大丈夫?」「ごめんね?」と言った。彩乃が謝る度に、綾香は首を横に振った。
近くに座っていた家族が何事かと二人を見ていた。子どもの「お姉ちゃんが泣かしたー。」という声も聞こえた。その言葉に彩乃は、更におろおろするばかりで、綾香は一向に泣きやむ気配がなかった。耐え切れなくなった彩乃が、席を立った。肩を上下させて、上手く呼吸も出来ないでいた綾香の元に、会計を済ませた彩乃が戻ってくると、綾香の手を引いて店を出た。
自転車を押しながら、彩乃はまた綾香に言った。
「ごめん…。のっち、ヤバイこと言ったかな…。」
「う、ううん。ちがうんよ…。」
少し落ち着いた綾香は、ハンドタオルを鞄から取り出すと、そっと涙を拭いた。
「…うれし、かった…。」
「え?」
「あたし、のっちがおらんとダメかもしれん。」
こんなにもこんなにもこんなにも。綾香は自分が彩乃に思われているなんて、思いもしなかった。これは嬉し涙だ。嬉しくて、思わず零れた涙。
「ありがと、ぉ…。」
涙でぼろぼろになった顔。綾香は、彩乃を見つめた。すると彩乃は、キョトンとしていた顔を、くしゃりと歪めて、また、いつもの垂れた眉で綾香に笑いかけた。
最終更新:2010年11月06日 17:35