かしゆかは、携帯電話越しに聞こえるのっちの声を、無表情に聞いていた。くだらない話を繰り返しては、笑い、かしゆか自身も、何故かわからないけれど、のっちとの電話は落ち着いた。のっちが相手だと、自然と素直になれた。時には、素直になりすぎて、憎まれ口を吐いたことも多々あったけれど。


「今日のデート、楽しかった?」


かしゆかは、電話をし始めたときから、のっちに聞きたかったことを聞いた。案の定、のっちは黙ってしまった。


『…なんでそんなこと聞くん。』
「え? 楽しかったんかなー、って思ったんよ。」


かしゆかは、意地悪な笑みを浮かべる。そして、のっちの反応を待つ。


『……たのしくなかった。』
「は? なんでそんなこと言うん。」


携帯電話を通した低い声。かしゆかは、耳を疑った。恋人とデートして、楽しくない、と言うのっちが気に入らなかった。たとえ、それが、かしゆかに気を使ってついた嘘なら、かしゆかは、尚更気に入らなかった。


『じゃあ、なんて言えばいいんよ。』
「“楽しかった”」
『意味、わからんわ。』


のっちの声が、一段と低くなった。この手の言い争いが増えたのは、かしゆかの気持ちに、何か変化があったからだろうか。答えは、相変わらず、ない。


「ゆかが、のっちの彼女だったら絶対やだ! 付き合ってるひとに、デートして、楽しくなかったなんて言われたくない。」
『……ごめん。』


のっちは、いつもそうだ。かしゆかが、感情的になると、謝る。かしゆかは、心の中で、のっち、それは間違っているよ、と言った。


『でも。』
「なんよ。」
『ゆかちゃんのことが、好き、だからだよ…。』


ねえ、のっち、なんでゆかがいいの? ゆかよりいいこなんて、山ほどいるでしょ? あ〜ちゃんが、いるでしょ? これ以上、ゆかを。


「…ゆかも、のっちが好きだよ。」


それは、空が薄っすら明るくなったAM5:00の話。






最終更新:2010年11月06日 18:01