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世界の色を変えるなんて、なんだ簡単なことだった。
クリックするだけで更新される世界。瞬きする間に動き出した気持ち。感情は加速して、24時間じゃ足りないくらい。光の速さでキラキラと駆けめぐる。
あ〜ちゃんがクリックして。あたしがバージョンアップされた。
…しかし。この新型のっちときたら。
我ながら情けないほど、寝ても覚めてもあ〜ちゃん一色で、ほんとヤバい。
あ〜ちゃんの形のいい爪や腕の内側の白さなんて、今まで見落としてたとこを発見してはにやけたり、気付くとあ〜ちゃんの髪とか頬とか唇とか柔らかそうなとこをガン見してたり…。
…何やら変質者じみてきた、のである。
ヤバい、ヤバいよね、こんなの乙女の初恋じゃないやい!とじたばたしてると、余計噛んだりどもったりすべったり飛んだりで。
あ〜ちゃんからは白い目で見られ、ゆかちゃんは黒い突っ込みの猛攻撃を仕掛けてくる。
自分の挙動不審っぷりが嫌で、あ〜ちゃんから距離をおこうとしても。
…すぐに不安になって、会いたくなるんだ。
だって。あたしはあ〜ちゃんの唯一絶対な存在じゃない。


うぬぼれを承知で言わせてもらうと…多分、のっちはあ〜ちゃんのお気に入りくらいの存在で、いじって頂いている(何故に敬語!?)。
でもそれは、好きな犬ランキング1位みたいなもんで。しかも暫定1位で。
そんなこと思うと居ても立ってもいられなくて。
あたしはしっぽ振ってあ〜ちゃんとこに跳んで行っては、しっぽまいてハウス…のガガガループ。
心臓に爆弾かかえた人がジェットコースターに乗るような、自殺行為っつうか自虐行為だ。
…何か、さすがに疲れてきた。恋って色々すさまじい。


あたしは図書室で、最近手がつけられなくてたまりにたまった英語の課題をやっていた…が、いつの間にかよだれたらして寝入っていた。
突然、ふわっとした柔らかい気配に包まれた。
机に突っ伏したあたしにのっかるように。肩に腕が回されて。
つんつん、とあたしの手を指で突っつく。
…うわ。あたしの体が硬直する。
「の〜っち」耳元に甘い声。「寝とらんと、起きんさい」
…だから。こういうの、ヤバいから。顔が上げられない。


「のっち…ねえ、どしたん?起きとんじゃろ?」
あ〜ちゃんは無邪気にあたしにしがみついて、揺さぶった。
…や、柔らかいものが当たるからやめなさい(ってあたしのが変じゃ!)。
あ〜、もう!
「…あ〜ちゃん、うるさいけえ」気付くと口走ってた。「…一人にして」
さっ、とあ〜ちゃんが固まる気配がした。
…しまった。
「…分かった。あ〜ちゃんもう知らん」
放り投げるような声。冷たい余韻を残して。すっ、とあ〜ちゃんの気配が遠ざかる。
違う違う、そんなつもりじゃない。あたしはバッと顔を上げたけど。
あ〜ちゃんは背中を見せて、容赦ない歩調でずんずん去って行った。
…あ。見捨てられた。いらん子に、なった。あたしは唇を噛んだ。
「…のっち、何しよん?あ〜ちゃん怒らして」
背後から黒い声、黒い気配。…ゆかちゃんだ。い、いたんですか。
「何であんな態度取ったんよ、のっちらしくない」
「 …う。」
「それでなくとも、最近のっちがおかしい、ってあ〜ちゃん心配しとんのに」
「…え」
「…のっち、何考えとん?」
ゆかちゃんの悪魔のような声が、有無を言わさずあたしを促す。
「何か…あ〜ちゃんにくっつかれると……よ、良からぬ事を口走りそうな…」
「ふうう〜ん、良からぬ事ねえ…」


ゆかちゃんは盛大ににやにや笑いを浮かべて、
「自制心保てるようなら、あ〜ちゃんのとこ行って来んさい。多分図書資料室に立てこもっとるよ。はい、鍵」
「…サンキュ」
「あ、良からぬ行為に出たら、ゆかが殺すよ?」
…のっちにはそんな度胸ないけえ…。


薄暗い図書資料室の窓際に、あ〜ちゃんは佇んでいて、あたしを見ると、ぷいと背を向けた。
あたしはおどおどと、あ〜ちゃんの側に寄る。
「…あ〜ちゃん、ごめん…」
あ〜ちゃんはあたしの方を見ないで、
「別にのっちが謝ることじゃないけえ」
距離を置いた、淡々とした声。
「ほんまはのっちは一人がええんじゃろ?あ〜ちゃんはうるさいけえ、鬱陶しいんじゃろ?」
「あ〜ちゃん、そんなことない!違うんよ!」
「もうクラスも違うんじゃし、のっちの好きにしんさい。うちはもう知らん」
「…っ、何でそんなこと言うん!?」
「何でって…のっちじゃろ、うちが近寄る度嫌な、困った顔するの、のっちの方じゃろ!?」
「それは…っ、あ〜ちゃんがおったら、どきどきして死にそうになるけえ…っ」
…あ。
言っ…ちゃっ…た…。


振り向いたあ〜ちゃんがポカンとしてる。
ダメだ、マヌケすぎる、絶対故障だ。てゆうかあ〜ちゃん的にありえんじゃろ。アホの子どころか変質者じゃ。
もう、もうもうもうダメだ…。
「…どきどきって何ね…?」
あ〜ちゃんは上目使いで覗き込むようにあたしを見る。
あたしがへどもどして滝汗をかいてると、あ〜ちゃんは吹き出して、
「そうなんじゃ、のっちはあ〜ちゃんにどきどきするんじゃあ」
と歌うように言って、あたしをチラッと見ていたづらっぽい笑いを浮かべた。
あ〜ちゃんはご機嫌を直した様子で、ふんわりと笑いながら、
「のっち、さっき英語の課題やっとったんじゃろ?あ〜ちゃん手伝ってあげる」
そう言って、あたしを見上げながら、ぴとっとあたしの腕にしがみついてきた。
「…っうわあああっ、あああああ〜ちゃん!?」
あたしがマヌケな叫び声を上げて飛び上がると、あ〜ちゃんは嬉しそうに満面の笑顔を輝かせた。
「ほんまじゃ、どきどきしよる〜」
あ〜ちゃんは楽しくて仕方ないって感じで笑い転げた。
あたしはもう、耳まで真っ赤で。
…まずい。あ〜ちゃんにいじられるネタをまた提供してしまった。
意地悪姫はたいそうご満悦なご様子で、あたしにぴったりくっついたまま。
至近距離のあ〜ちゃんから甘酸っぱいフルーツの香り。あ〜ちゃんの甘い息づかいが聞こえてきそうで。
唇が、近くて。…キス、出来そう…、って、なななな何て良からぬ事を考えとんよ!?


息が上がって発汗量が尋常でないあたしにさすがに不安になったのか、
「…のっち、汗大丈夫?」
なんて小首かしげてきいてくるあ〜ちゃん。…のっちの為を思うなら、そういう可愛い顔はやめて下さい…。
死にかけてるあたしに、あ〜ちゃんはふうって息をついて、
「ほんましょうがないねえ。じゃ、あ〜ちゃん先行くわ、落ち着いたら来んさい」
…あ。
するりとあ〜ちゃんの腕が外れた。
あたしは、異常だ。あ〜ちゃんの腕が離れようとした瞬間。とっさに、引き寄せようとしたんだ。
どきどきして息苦しくて死にそうだったのに。自虐行為もいいとこだ。
でも。あ〜ちゃんの腕の中なら、苦しくても楽園。心拍数は幸福のバロメーター。呼吸困難で息絶えてもあ〜ちゃんの笑顔が側にあるなら。
…もういいや。あ〜ちゃんにはもう隠しようがないんだから。盛大に、どきどきしてやる。
じたばたと、恋をしてやる。
まあ今日のところの結論。
とりあえず、嫌われてはいないようだ。のっち的には万々歳。
小さな一歩(小さすぎないか!?)にあたしは大満足して、しっぽ振りながら飼い主の元へと、急いで図書資料室を飛び出した。

終わり






最終更新:2008年10月12日 21:50