「どうせ、一緒にいるんだからさ、むずかしいこと考えずに、楽しくいようよ。」
この関係が始まって、間もない頃、のっちはかしゆかにこう告げた。いつからとか、はっきりしたことはわからない。
のっちに恋人がいようがいなかろうが、かしゆかに恋人がいようがいなかろうが、この関係が続いていく。だったら背景など気にせず、楽しいことだけ共有していけばいいのではないか。
初めさえ、疑問に思っていたかしゆかだが、ついに首を縦に振った。
「でもさー、ゆかちゃん、本当にのっちのこと好きなん?」
「信じてくれんの?」
「えー、だってさー、のっちはゆかちゃんのこと好きだけど、ゆかちゃんは違う気がする。」
かしゆかは、笑った。散々かしゆかのことを好きだと言っておいて、いざ、かしゆかが好きだと言うと、のっちは全くかしゆかの気持ちを信じてくれなかった。
「のっちのこと、好きなのになあ。」
「うれしい。」
「そう?」
「のっちもゆかちゃんのこと、すきだよ。」
のっちは、だらしなく笑う。へへへ、と顔をくしゃりとさせて、眉を垂らして、だらしなく笑う。かしゆかは、のっちのその顔が好きだった。その顔を見せる度、のっちに愛されていることを自覚することが出来た。負けを認める時期が、近づいた。
「のっちのこと、好きだけど。」
「ん?」
「彼女に対する好きと、のっちに対する好きは、カタチが、違う。」
「うん。」
彼女に対する気持ちが、○なら、のっちに対する気持ちは、△だと思う。カタチが違うから、全く別物の愛だとかしゆかは、言い張る。のっちもそうだと、頷く。
のっちは言う。どうせ一緒にいるのなら、楽しく一緒にいようよ、と。かしゆかは頷く。つらいことも全部受け止めるのが、恋人同士なら、この曖昧で不自然な関係は、楽しいことだけ共有すればいいのではないかと。
それは、少しだけ、かしゆかが好きを認めた、熱帯夜。
最終更新:2010年11月06日 18:05