「…ゆかちゃん。」
「どうしたん?」
「んーん、何でもないけど。」
明らかに元気のない声が、かしゆかの耳に届く。長い髪をくるくると指に巻きつけて、かしゆかは明るく尋ねた。それなのにも関わらず、のっちの声は、相変わらず沈んだままだった。
「ゆかちゃん、明日早いんじゃないん? もう寝なよ。」
「でも、」
「じゃあね、おやすみ。」
のっちの声が離れて行く気がした。かしゆかは、咄嗟に呼び止めた。
「のっち! 冷たい!」
「冷たくないよ? …なんかちょっと電池切れ?」
「電池切れ?」
「ゆかちゃんが足んない。ごめん。」
そうやっていつものっちは、かしゆかの心の中に、ずかずかと、土足で踏み込んでくる。のっちは、甘え上手だと思った。かしゆかのことをよくわかっている。土足禁止だったかしゆかの心の奥を、いとも簡単にのっちは突いてしまった。
かしゆかは、黙った。どう答えていいのかわからず、黙った。いつもかしゆかに大好きだ、と叫ぶように思いを伝えてくるのっちに見えた、弱さ。かしゆかは、のっちを愛しく思った。
「でも、ゆかちゃんは、そうじゃない。だから、寂しい。」
「えっ?」
「のっちが寂しがってるの、わかってくれたらいいよ。」
足りない、とか。何故言うのだろう、かしゆかは思う。
あ〜ちゃんに満たしてもらって、なお、何でかしゆかのことが必要なのだろうか。のっちの真意が、かしゆかは一向に掴めないでいた。
「…ゆかも、さみしいよ。」
のっちがいないと。
かしゆかは、半月に欠けた月を見て、静かに告げた。
最終更新:2010年11月06日 18:12