「ゆかちゃんがのっちの情けないとこ見ても嫌いになんないなら、それってもう恋人じゃん。」
ふわふわと浮遊していた感情が、確かなものになったというのに、いつまでもカタチのつかめない関係は、何故だか悪化する。爪先で突いて、柔らかいところを興味本位で刺激しただけなのに、思いのほか粘着力のあったそれは、かしゆかの足を、見事に身動きを取れなくした。
「…それって恋人にしかない感情なん? 友達でもそういうのはアリでしょ。」
「でも楽しいとこだけっていう、浮気の沸点越えてるよ?」
楽しいことだけ。
その時期はかしゆかの中では、終わった。とっくの昔に終わっていた。楽しくない。
「そんな時期、とっくにゆかの中では、終わった。楽しいわけないでしょ?」
「え? なん…。ゆかちゃんがやめたいなら、好きにしなよ。」
かしゆかは、シットした。これを嫉妬と感じたくもないかしゆかは、自分の心に沸々と湧き上がる感情に何度も首を横に振った。日に日に湧き出すそれは、もはや当初自分が抱いていた感情なんて、どこにもなかった。消し去ってしまった。
自信も愛も、何もかも。全部塗り替えられたというのに、のっちの気持ちはさっぱり分からない。
「のっちは、追わないよ。」
静かに告げられたそれは、かしゆかの心に矢を刺した。
結局は。かしゆかだけが、だったのか。そう思い晒されたようで、かしゆかは、泣けた。子どものように泣きじゃくっても、誰も背中を擦ってはくれないけれど、泣いた。泣くことでしか感情を放出することが出来なかった。
「……のっちのしてきたことは…!」
喉まで出てきた言葉をかしゆかは、飲み込んだ。負けだ。大敗した。
強気で、ヒトに弱いところなんて見せたくなかった。見せるのであれば、今付き合っている人だけでよかったのに。だからかしゆかは、飲み込んだ。ここで言ってしまえば負けだと思った。もう勝ち負けなんて、ついてしまったけれど。
のっちのしてきたことは、浮気相手にすることじゃない、なんて、のっちを好きになったことを認めるみたいで、かしゆかは、言えなかった。
最終更新:2010年11月07日 02:08