「…っち、のっち!」
「んーんー。」
身体を揺さぶっても。のっちは、掛け布団に包まって、一向に出てくる気配がない。かしゆかの視線は、腕時計に移動する。もう約束の時間は迫っている。
「んー…ゆか、ちゃん。」
眠気眼でかしゆかを見る。大きな瞳は、半分も開いていない。目元を擦って、眉を垂らして、かしゆかを見る。
やっと、事の状況を理解したのか、のっちがかしゆかへと手を伸ばす。何がしたいのか、こっちは時間がないと言うのに。かしゆかは、もう少しばかりのっちの我儘に付き合うことにした。
伸ばされた掌は、かしゆかの細い腰を捉えた。のっちは、起き上がってその腰に抱きついた。ロマンチックなことなんて似合わないくせに、かしゆかの腹部にキスを落として言う。
「もー、いくん…。」
甘い時間は、どこまでも甘ったるい。
けれど、かしゆかは、この時間が現実であり、現実でないことを知ってしまった。
形のいいボブ頭を、撫でれば、「んー。」と眠そうに喉を鳴らす。そんなのっちが、たまらなく愛おしい。
「のっち、ゆか、もう行かないと。」
のっちが、ゆっくりとかしゆかの腰に巻きついていた腕を解く。指を絡めて。名残惜しそうに、かしゆかを見上げ、じゃあね、その指さえも離れて。
「またね。」
どこまでも愛おしいのに、結ばれることはない。
最終更新:2010年11月07日 02:14