本当は、全てわかっているくせに。
わからないふりをする。


かしゆかがどうしてほしいかも、のっちはわかっているくせに、分からないフリをするものだから、かしゆかだって身動きが取れない。答えなんて、わかっている。いちばん自分たちがどうすべきなのかも、わかっている。それでも、どうしようも出来ない、ということもわかっているのに。
楽しさだけを共有する関係が、どれだけ大変なものか、かしゆかは知った。それ以上でも、それ以下でもいけない。ボーダーラインの生活。
戯言にしか、聞こえなくなった。それでも、優しさに縋りたくなる。


「のっちはさ、ゆかちゃんに彼女がいても、ゆかちゃんが好きだから。」


「ゆかちゃんも、そうだったらいいな、って思った。」


のっちの言葉が、かしゆかの耳を、右から左へと通り抜けていった。
かしゆかが、のっちのことを、罵倒するだけ罵倒して、サヨナラ出来て、それでもゆかちゃんがいいよって言わせたら、どれだけ気持ちいいだろうか。かしゆかは、考える。
それでも、かしゆかは、のっちを責めることは出来ないだろうと、思う。そして、のっちの真意に応えることも出来ない。


静かに頷くことが、精一杯で。


「…うん、わかった。」


殻だって、破ることは、出来たはずだ。
それでも、かしゆかがそうしなかったのは、そこに何もないと悟ったからだ。これ以上、捨てられたくなかった。捨てたくもなかった。


納得するよ、のっち。
それでものっちが、ゆかと一緒にいたいと思うなら、ゆかはのっちと一緒にいる。けれど、ゆかはこれ以上のっちを好きにはなれない。ならない。のっちが、100の愛情をゆかに捧げてくれたとしても、ゆかは、70しか返さない。それでもいい? それでもいいよね? ズルイのは、お互い様だよ。


でも、一度でいいから。
『あ〜ちゃんと、別れよっかな。』
戯言でいいから、聞きたかった。


「ねえ。」
「んー?」
「ゆかと、ずっと一緒にいてくれるん?」
「えっ、何いっとるん。」
「ゆかのこと、」
「のっちは、ゆかちゃんから離れないよ。」
「…じゃあ、ゆかも離れん。」


かしゆかは、空を見上げた。空は、皮肉にも雲ひとつない青空だった。





最終更新:2010年11月07日 02:19