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「のっちのファンクラブぅ?!」
あたしはフリースローのポーズのまま固まって、ゆかちゃんを見た。
「うん、今年の1年生の間で人気なんだって」
「人気って…あれが?」
「そ、あれが」
あたしとゆかちゃんは揃ってのっちを見た。
バスケのコートの向こう側。のっちはクラスメイトとぎこちなく談笑しながらドリブルやパスの練習をしてる。
あたしとゆかちゃんに気づくと、豆のような笑顔でぶんぶんと手を振った。
…まぬけ。
あたしは無反応に背を向けた。背中越しでも、のっちがガビーンとショックを受けてるのが分かる。多分眉は八の字。
「あ〜ちゃん、ひどいよ」
とか言いながらゆかちゃんは笑ってる。
「ええんよ、対戦相手なんじゃけえ」
クラスマッチ(広島の学校では球技大会をこう言います。作者注)の決勝。
2年のバスケは、あたしのいる3組とのっちの1組とで決勝戦。ゆかちゃんのバレーのチームは早々に負けたので、あたしの(のっちのではない!)応援に専念。


「あ、ほら。1年生が集まって来とる」
「見た目と違ってアホの子なんを知らんのんじゃね」
と気にしない感じでシュートをうったけど、リングにガコンと当たって失敗。
…面白くない。
いや、別に、シュートが外れたのが面白くないんであって、のっちのことなんか気にしとらんし。
だいたいのっちにはこの間…なんか告白ととるのもアレな…間の抜けたどきどき宣言をされたし…。
でもあれって何なんよ。好きと言われた訳じゃないし。…ガコン。
いや別に熱っぽく好きと言われても、あ〜ちゃんはのっちのことなんか、な〜んとも思っとらんし。…ガコン。
もしかしたらうちの考え過ぎで、のっちは心臓病の相談のつもりだったんかもしれん。…ガコン。
てゆうかシュート外し過ぎじゃろ!
チラッと1組サイドを見ると、1年生が固まってきゃあきゃあ言ってる。
「…何であんなえんどう豆がええんじゃろ。ねえ、ゆかちゃん?」
「…一人2冊買うとして…いや特典をつけて複数買いをあおれば…思わぬ副収入が…」
「ゆ、ゆかちゃん?!オーラがどす黒いよ!」
「んー、何でも無いよぉ。あ、試合始まるって、あ〜ちゃん頑張りんさい!」


両チームともコート中央に集まる。あたしはのっちの正面に立って、
「うちはのっちには負けんけえ!絶対勝つけん!」
と高らかに宣言すると、のっちはさっき無視されたあたしにかまってもらえたのが相当嬉しい様子で、
「うん、のっちもあ〜ちゃんに負けん!」
と無邪気な笑顔で生意気なことを言った。
うちの負けず嫌いはほんまじゃけど、のっちは本来マイペース。うちから仕掛けられたゲームに嬉々として乗っかってくるのはいつものこと。
あたしは何だか気が抜けた。
するとのっちがそそっと寄って来て、小声でぼそぼそと、
「…あ〜ちゃん、ポ、ポニーテールかわいいね」
…脱力。耳まで真っ赤になるくらいならそんなこと言わんといてや!こっちまで、なんか顔が熱い。
2人して真っ赤になってると、試合開始のホイッスルが鳴った。


試合は接戦。てゆうかあたしが絶不調。シュートは外すし、パスはミスするし。
リーチの長さと動きのしなやかさではのっちにかなわないから、あたしは足の速さとパワーでカバーしないといけないのに。
無理な姿勢でシュートした時、着地で足をひねったみたいでいつもの馬力が出ない。
だいたい、のっちがシュートしたり、当たり前のドリブルくらいで、1年生達が歓声を上げるから気が散る。
バッカみたい。いや、別に気にはしとらんよ。何かイライラするだけで。
それにのっちが試合前に変なこと言うから。ポニーテールの先っぽが揺れるたび、のっちの目線が気になって…って、じゃけえあ〜ちゃん気にはしとらんってば!
ラスト1分。46対45。何とかあ〜ちゃん達が勝っとる。
1組のリバウンドをあたしが取った。よし、このまま逃げ切る!
その時すうっとしなやかな腕が伸びて。
あ、とあたしは目で追った。
のっちは流れるようにあたしからボールをさらうと、そのままガードをかわして。
綺麗に、ランニングシュートを決めた。静止して見えるような、綺麗なフォーム。
世界が止まった。
あたしは、立ち尽くしたまま。
1年生達の歓声が聞こえたけど、そんなの遠く感じる。
試合終了のホイッスル。のろのろと、世界が動き出す。
のっちが笑って大きくピースサインをして、
「あ〜ちゃん!のっちが勝ったよ〜!」
子供みたいな笑顔。…バッカみたい。のっちは無邪気だ。
意識しとったのは、うちの方じゃ。負けたくなかったのは、うちだけ。


駆け寄って来ようとしたのっちを、1組の子達がわあっと取り囲んだ。1年生達も遠慮がちに、デジカメ片手ににじり寄って来だした。
あたしはぷいっと背を向けて、体育館を出た。


ぱたぱたとあたしを追ってくる、子犬みたいな気配。振り返らなくても誰だか分かる。
追いつかれたくないけど、ひねった足が痛くてスピードが上げれない。
「あ〜ちゃん!」
のっちの声。
あ〜ちゃんどうしたん、とか、何で無視するん、とか怒っとるん、とか聞かれたら何かひどいこと言っちゃいそう。
でものっちの口から出たのは、
「あ〜ちゃん、足ひねったん?」
「…え」
「試合中は気付かんかったけど、体育館出る時、足かばっとったけえ」
「…ちょっとひねったけえ、保健室行こうとしとったんよ」
「あ、じゃあのっちもついてく」
のっちはうちのお供をするのが光栄でたまらない感じで顔を輝かせて、とことこついて来る。
…なんか調子狂う。とことん忠犬ってゆうか…下僕…。
保健室は誰もいなかった。
のっちはいそいそとベッドのしわを整えて(のっちは結構優しいとこはあるんよ)あたしを座らせ、ガサゴソと救急箱をあさり始めた。
あたしはベッドの横の丸椅子に足をのせる。
湿布を見つけたのっちはあたしの足元に膝まずいて…急に困った顔をした。


「あ、あ〜ちゃん…」
「…ん?」
「靴下、脱いで…。のっちには脱がせれん…けえ」
「っはああ!?…下着脱がすわけじゃあるまいし…」
「あ、あ〜ちゃん!!ななな何てことを…!」
真っ赤に汗をかいてじたばたするのっち。…面倒くさい。あたしは靴下を脱いだ。
のっちは恐る恐るあたしの足に触れて…ううん、触れないように注意しながら、そうっと湿布をはる。
じれったいような指先。触れると切れそうな緊張。あたし達2人とも息を殺して。
のっちはあたしの足元に膝まずいて。あたしをすごく、宝物みたいに大事に扱うから。
…なんか切なくて。どきどきが、こみ上げてきて。
「…あ、あ〜ちゃん?!」
のっちが目をまん丸に見開いてあたしを覗き込んだ。
「何で泣いとるん!?痛いん!?」
「…っうわ〜ん、やだ〜」
「あっ、あ〜ちゃん、どしたん!?」
「やだ〜、のっちに負けた〜、うわ〜ん」
堰を切ったように、あたしが子供みたく声を上げて泣き出すと、保健室のドアがガラっと開いて、ゆかちゃんが
「あ〜ちゃん、どしたん!?」
と飛び込んで来た(樫野さんは盗み聞きしてましたが、耳にあてたコップのあとは髪で隠れてます。作者注)
「のっち、何かしたんね!?」
「なっ、なな何もしとらんよ!」
のっちは首が外れそうな超高速でぶんぶん頭を振った。


「ゆかちゃん…」
「あ〜ちゃん、どしたん?」
ゆかちゃんは常にあたしが最優先事項だから、のっちを睨むのをやめて、あたしの横に座ってあやすように頭を優しく撫でてきた。
あたしもしゃっくり上げながら、ゆかちゃんの柔らかい髪に顔をうずめてしがみついた。
いい匂い。あたしは、ほっとする。
ちらりと髪の隙間から見ると。のっちは理不尽なお預けをくらった犬みたく、しょぼんとお座りをしてて。
…なんかいい気味。
あたしの機嫌はたちまち直ったけど。でも何か。
やっぱりのっちに負けちゃったのは悔しいし。純情な下僕はいじめがいがあるし。
それに。のっちの指が触れそうで触れなかった足首が、なんか熱を帯びてて…どきどきするから。
まだ、お預け。
…のっちの涙目?そんなん知らん!
あ〜ちゃんだって…なんか…泣きたいくらい(ってもう泣いとるけど)胸がきゅうっとしとんよ。
あたしはすんすんと鼻をすすりながら、ゆかちゃんのいい匂いのする優しい手に甘えた。


終わり
※樫野さんはこの後創作活動で暴利をむさぼるので、この頃は原始的な盗聴方法(コップ)使用しとります。どうでもいい情報。






最終更新:2008年10月12日 22:02