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「あ〜ちゃん、なに聴いてんの?」
「ん?」


有香が背後からやってきて、綾香がつけていたヘッドフォンを少し浮かした。メロディしか聴こえてこなかった耳に、突然吹き込まれた可愛らしい声。


「あっ。」


ミュージックプレイヤーをひょいっと有香に取られて、綾香はそれを追うように腕を伸ばした。有香は綾香のミュージックプレイヤーを手に取り、ぽちぽちと操作する。


「あれ? 今日はカプセルじゃないん?」
「あ、うん。」
「珍しいねー、あ〜ちゃん、ラルクとか聴くんじゃあ。」
「その曲だけ、ね。」
「なんで?」
「…ものすごく、好きなんよ。」


綾香は、どこか遠くを見ながらそう告げた。




授業も終わり、今日は何だか真っ直ぐ家に帰る気にもなれなくて、駅付近のコーヒーショップに立ち寄ることにした。大学の最寄り駅のため、授業終わりの学生の姿がちらほらうかがえる。今日は、甘いものが飲みたい。綾香は、ミルク多めで、と付け加えた。


窓際の席から見える景色は、灰色だった。音が聴きたい、そう思って取り出したミュージックプレイヤーの表示は、先ほどの曲のままだった。綾香は画面をじっと見つめたまま、再びその曲を再生させる。
もう、聴くことはないだろうと思っていたはずの曲は、いとも簡単に綾香の耳に馴染んだ。




それは宙に舞い上がり、空に溶けて、そして消えた。



ふいに見上げた夜空には
星が一面に輝いていて。


あぁ、、、、

それまでずっと、視線が落ちていたことに気付かされた。


泣かない、て
決めてたのに、な。


そもそも、あたしは
そんな簡単には泣かないのだけれど…


見上げた星空が、あまりにもキレーで
あの日、みたいにキレーで


ゆかちゃんの瞳
みたいに、キレーで。


思わず泣き出しそうに、なった。


彼女は、やっぱり来てはくれなくって
約束は守られることも、なく


そりゃ、そうだ


『ゆかは、行かない、、、行けない、、よ?』


一方的な、約束
だったから。



来るはず、ない。




とうに、時間は境目を越えていた。


今さら、帰れるわけもなく
そもそも、帰る気も、なく。



「さむっ…」


寝転がると、涙はどこかにせき止められた。


大地を背に見上げた夜空。


確かに、そこにいるって感じさせてくれるのに



ふわっ



異次元に放り込まれたような
そんな、錯覚も起こしそう、で。



そう


あやふにしてくれれば、いぃんだ。



ぎゅっと、目を閉じる。



そんでも

さっきまでの、星の瞬きは見えるような気がして


彼女のまなざしが、脳裏をよぎる。



あぁ、、、やっぱ


「・・・ぅ、、き、、、、



—すき、だょー



想いは、うまく
音には、乗ってくれなかった。





たしかに、ちゃんと

ここに

この胸にあって


こんなにも、キリッ、、と


締め付けるっての、に…



それでも、届かないなんて。



そっと、目を開け
すっと、手を伸ばす。



「好き、なのに、なぁ…」


この距離


少しでも、近づけばいいのに。


全て、あいまいになって

溶けて、溶けて、溶けて

混ざり合って



ぐちゃぐちゃになれば、いい。



ゆかちゃんが

のっちを侵食しちゃったように



のっちも


ゆかちゃんのこと


侵食したいよ。






最終更新:2010年11月07日 02:36