ライブハウスの裏には、小さな土手があった。ライブ終わりに、少しだけ話をしたいときに、綾香と彩乃は、土手沿いに腰掛けて話をした。その日は、一段と星が綺麗で、今にも降ってきそうな無数の星がふたりを包み込んだ。
先日のファミレスでの出来事が、どうも気がかりだった綾香だが、彩乃の態度は、いつもと変わりなかった。普段通り話しかけてくる彩乃に、ホッとした綾香だった。
どうでもいいようなことを話すのは、いつものことだった。学校、家族、友達、ライブ、カプセル。綾香と彩乃は、お互い共感し合える部分が多い。綾香は、彩乃と話すことが何よりの癒しだった。


「ふーっ。」
彩乃が、小さく息を吐いた。何を急に、と、綾香は彩乃の横顔を見た。


「……のっち、あ〜ちゃんのこと好きだったよ。」


突然の告白に、綾香の目は大きく見開く。


「…す、好きって…。」
「別に言わなくてもよかったんだけどさあ、何か言っちゃった。あ〜ちゃんなら大丈夫かもーって思ったし。ちょうすきだったよ。気付いてたかもしんないけどー。」


ぞろぞろとライブを終えた若い集団が、外へ出てきた。騒がしくなる付近。しかし、綾香と彩乃がいるこの土手沿いだけは、何故かとても穏やかで、虫の音も聞き取れるほどだった。


「うれしいー?」
「…ありがとう。」
「え?」
「うれしかった。」
「…言ってよかった。」


彩乃は、けして綾香の顔を見ようとしなかった。だから、綾香も彩乃の顔を見ようとはしなかった。見てしまうと、心臓がどうにかなってしまうのではないかと思うほど、綾香は緊張していた。


「…あたし、のっちのこと、大事だから!」
「え? 何? また好きにさせるつもりなん、あ〜ちゃん!」
「だって大事なのには変わりないよ?」
「狙っていっとるんー、それー?」


けらけら笑い出した彩乃が、やっと綾香の顔を見ると、綾香も自然と笑顔になった。先ほどまでの緊張の糸は、簡単に切れてしまった。


「さっ、帰ろっか。」


彩乃は立ち上がると、まだ座ったままの綾香にそっと手を差し伸べる。差し出された手を受け取るのが、何だかとても恥ずかしい綾香は、その手に気付かないフリをしてそそくさと立ち上がった。綾香は、ひとりで駆け出して、「のっち! ほってくよ!」と元気よく叫ぶと、彩乃は慌てて綾香のあとを追った。


呆気なく終わった彩乃の告白は、綾香の心に温かく残っていった。






最終更新:2010年11月07日 02:37