ちょっと、ちょっと…。
こんな田舎街も捨てたもんじゃないよ、青井!
あなたにはまったくときめかなかったけどね、青井!


都会に住む恋人に、
この街にも慣れました。イケメンな女の子と仲良くなりました。
ってメールしたのに音沙汰ないけど捨てたもんじゃないよ、青井!


あれから、あの日、あの席で会ってから、彼女とよくあの店で会った。
ゆかが行くと必ずいるから、ひょっとして狙ってんのー?なんて浮かれたけど、
マスターによると、どうやら彼女は毎日いるみたい。なんだ、残念。
でも、退屈なこの田舎街で見つけた心地好い隠れ家を、彼女も好んで通ってるんだろな。なんて考えたら、ゆかは嬉しくなった。
だってそれなら、ゆかと一緒だ。
仕事帰りにここに寄って、ラテをダブルショットにして飲む。味の好みまでゆかと一緒で浮かれずにはいられないけど。
ま、ゆかにはメグさんいるし。勝手に浮かれてるくらいがちょうどいいんだよね。




「いらっしゃい」
「こんばんわー」


扉を開けるとからから鳴るベルの音。心地好くてなんか、好き。


「あ、います?」
「うん、もういますよ」


マスターが指差したその先に、今日もゆかのお目当ての彼女はいた。


「こんばんわ」
「あ、樫野さん。こんばんわ」
「ここ、いい?」
「うん、どうぞ」
「だからぁ、ゆかでいいってー」
「あ、うんうん。そうだったね」


あれから数週間たって、何回か会って。お互い距離はかなり縮まったのは事実だけど、
“ゆか”って呼んでと行っても、いつも“樫野さん”って呼ばれるし、
“なんて呼べばいいの?”って聞いても、“あ、大本です”って言うだけで、なんかちょっと淋しいのも事実。

でも、“あだ名みたいなの、ないんだよね”って、照れ臭そうに笑った彼女が可愛すぎて、もうなんでもよくなったのも事実。






最終更新:2010年11月07日 02:41