まるで、その声が合図だったかとでもいうように。
「…今日、うち、寄っていかん…?」
うん。すぐに頷いて部屋に入ったのはよかった。何がいけなかったのだろう。匂いだ、かしゆかはそう思った。ドアを開けるやいなや、かしゆかの嗅覚を刺激したのは、いつもの甘ったるい香りではなかった。のっち以外を連想させるローズの香りは、この部屋には似合わない。
「ゆかちゃん…?」
かしゆかの異変に気付いたのっちが、うしろを振り返る。垂れた眉毛が憎らしい。ねえ、この匂いはなあに。
思うまま、かしゆかはのっちの手首を掴んで、壁に体ごと押し付けた。壁に縫い付けられたかのように、捕らえられたのっちの身体。のっちの眉毛は垂れたままだ。
匂いに刺激されたかのように、かしゆかはのっちの首筋に舌を這わせた。
「んっ…!?」
小さく洩れる吐息。逃したくない。
「ちょっ、待ってよ、ゆかちゃん…。」
「なに言うとるん、のっちだってシたかったんじゃないん?」
「ん、ちがっ…。」
キスはあげなかった。のっちがその気になるまで、キスはあげないと、決めた。その代わりに、かしゆかは耳を舐めた。ぺろぺろと舌を這わせて、音を立てて、のっちの聴覚を刺激する。
かしゆかが固定した、のっち手首、の先にある指が、何かを求めるかように彷徨っているのが見えた。なにがほしいの、のっち。ゆかはここだよ、のっちにまだゆかはあげれないよ。
のっちの左手を開放して、かしゆかの右手は、のっちのTシャツの中へと潜り込む。ブラの上から、乳首にぐりぐりと人差し指を押し付けると、眉間に皺を寄せてかしゆかを見ているのっちと目が合った。小ぶりな胸は、かしゆかの掌でもすっぽりと収まる。押し付けるように、強引に左胸を揉み解せば、のっちはビクりと身体を反応させる。のっちは、かしゆかの肩に必死に顔を押し付けた。
しかし、かしゆかは、のっちの異変に気付いた。
「声、我慢したらだーめ。」
のっちの可愛い声が聞けていない。かしゆかを最も興奮させる、のっちの声がまだ、ひとつも聞けていない。口ではあしらうように言ってみたかしゆかだったが、目は、本気だった。そうでもしなければ、余裕など、ない。
いつだってのっちとかしゆかの関係は、不確かだった。かしゆかだって、人並み、いや、のっちに対してはそれ以上に独占欲を持つ。ウソの自分を演じては、のっちをかしゆかへと向かせる。どこへも行っちゃいやだよ、ゆかのそばにいて。かしゆかは、自分の脳裏に浮かんだ言葉、きっとそれはかしゆかの心の奥底から溢れ出た言葉のはずなのに、ふっ、と鼻で笑った。馬鹿馬鹿しくなる。そこまでして、のっちの心を繋ぎ止めておきたいものか。
「ん、だって…。」
「なんよ?」
「は、ずかしいぃ…。」
のっちは、興奮していた。玄関先で、靴を脱いだだけの状態で、かしゆかに壁に押し付けられて。性欲に逆らえられない身体は、かしゆかの指先に、舌に、言葉に、素直に反応する。
可愛いな、かしゆかは、また笑った。その顔をのっちは、上目で、しっかりと見ていた。
「ゆか、ちゃん…。」
「んー?」
「…ベッド、つれてって…。」
「やぁーだ、今日はここで、するんだよ?」
意地悪に笑ったかしゆかは、のっちのショートパンツのウエストからその中へと指を進めた。ゆらゆらと、力のないのっちの手が、かしゆかの侵入した手を掴んだが、もはや、何の妨げにもならない。
かしゆかが、ぐりぐりと、直接的な刺激は与えず、手を上下に動かすと、のっちは、かしゆかの肩に再び顔を埋めた。小さく、息遣いが聞こえる。もっと、聴きたい。
「のっち。」
「へ…?」
「ちゅー、してあげる。」
やっとのっちがその気になってきたところで、かしゆかは、のっちにキスを与える。躾けられた犬のように、素直に唇を突き出す姿がたまらなく愛しい。そもそも、のっちは、最初からかしゆかを全て受け入れるつもりだった。かしゆかもそれに気付いていた。なぜなら、かしゆかとのっちはニテイル、から。
邪魔になったショートパンツをショーツと共に、かしゆかは、一気にのっちの足首まで下げた。露わになる下半身。かしゆかは、いつも思う。セックスのときになると、途端に恥じらいをなくすのっちが、可愛い、と。
指を当てれば、案の定、濡れていた。
「ここ、こんなにして、どうしたん?」
「ひゃっ、あ…。」
「ねえ、のっち? こんな姿、ゆかの前以外で見せちゃ、やだよ?」
コクコク、と頷く姿は、もはやかしゆかのものだった。少しだけ高く鳴くその姿は、かしゆかをぞくぞくさせていく。もう、のっちという、パズルは、ハマったも同然だった。
かしゆかの指をのっちは、すんなり受け止める。小刻みに動かす指に、のっちは必至についていこうとする。立っている足が、がくがくと震え、のっちの腕は、かしゆかにしがみつくように首に回された。
「ゆかちゃ、」
「なあに?」
「もう、たって、らんない…っ」
「我慢して。」
「む、りぃ…。」
壁にのっちの背中を押し付けて少し体勢を低くしたかしゆかは、下からのっちを突き上げるように動いた。かしゆかが、突き上げる度に、のっちが声をあげる。可愛らしい声を。もう無理だよ、ゆかちゃん、と言う。
のっちとセックスをしているとき、かしゆかの独占欲は満足する。この瞬間がいつまでも続いていけばいいと、思う。かしゆからしく、なく。
のっちの身体が大きく震えた。震えると同時に力が抜けたのか、倒れそうになる。慌ててのっちの腰に腕を回してその身体を抱き留めると、のっちは、だらしなく「へへっ…。」と笑った。
指を引き抜けば、先ほどの行為を物語る、とろりとした液体がかしゆかの指にまとわりついていた。その指を目の前で確認したあと、のっちの口元に差し出せば、のっちは何の躊躇いもなく、その指を舐めた。それも、おいしそうに。
「ねえ、のっち…。」
繋ぎ止めておきたい、なんて思わないけれど。線と線を繋げておきたいとは、思う。やはり、かしゆかは、のっちを、いちばん近いところに、おきたがる。
「なに…?」
「もう、1回、シよ? いれていい?」
この瞬間だけ、かしゆかの独占欲は、満たされる。
「え、ゆかちゃ、」
「なに? だめなの?」
のっちの腕はぎゅ、と力を込めて再び、かしゆかの首に回されて。
「…ゆかちゃんが、いれたいなら、いいよ。」
いつだって、のっちの声が、合図だった。
END.
最終更新:2010年11月07日 03:03