あの日のゆかちゃんを思い出してみるのは毒だと思った。思ったから、そうしなかったのに、それでも思い出したのは焦燥が胸の奥で煙るから。
あの日塗り替えられた二人の関係は、今となっては幻のようで。何事もなく終えて、過ぎて、我を忘れた。

時は、止まったまま。のっちだけ。



『んはぁ、あ…の、ち、、』


耳の奥で響くのは甘い声。この部屋の匂いの、どこを切り取っても叶わないほどの、甘ったるい声。
いつものゆかちゃんとは違う。毒薬みたいに。誘われて、溺れて。やがてそれは、忘れられない幻になっちゃった。


そっと、耳に触れてみる。


奥の方にまだ残っているその声を、身体の音を、思い出しては火照る。


「ん、。ゆかちゃ…」


こんなふうに思い出すのは、いけないことなのかな。
そっと触れた耳たぶがぞわぞわ。
ちょっと触れた唇を濡らして。
きっと触れたいのはソコだって気付いてる。
のっちの記憶だもん。のっちの好きにシテ、いいよね。


『や、のっち…もっと…』


無遠慮にゆかちゃんの中に入ったのっちに、無意識で促して。
耳の奥でまだ残る。その声に胸を焦がして。
無自覚なゆかちゃんの素肌に、触れてみたくなる。
でもこの部屋にあるのは、いつもの甘ったるい匂いだけだから。
そっと触れた唇の奥の、舌の上の、唾液が左の指先を濡らして。
ちょっとだけ触れたソコの手前の、上の奥の、ぬめりが右の指先を濡らした。


この指先が、ゆかちゃんのものならば。


記憶はそんな幻を夢見る。








のっちはもう、我慢できないんだもん。
会えない夜に、会いたい夜に。
そばにいない夜に、いてくれない夜に。
我慢できるほど、お利口じゃないよ。


「ふぁ、、、ゆか、ちゃん…」


シーツに包まってベッドの上で一人、歌うように名前を呼んだ。
脳みそを溶かして、目に涙を浮かべて、指先を濡らした。


「ん、ぁっ、んー…」


ちょっとだけ、なんて。そんなの、無理。
はじめからそのつもりだったもん。この指先がゆかちゃんならって。のっちは、それでも、夢でも幻でも、嘘でも何でも。それでも、ゆかちゃんと繋がっていたいんだ。
はやる指先に息が漏れて、何度も何度も名前を呼んだ。
それでも。それでも、ゆかちゃんを受け入れるためだけののっちの身体は思うようにはイカナクテ。
指先を無駄に濡らして、捨て犬みたいに腰を振った。


のっちの身体は、まだ、飼い馴らされてないんだ。


「ん。ゆかちゃん…さ、わ…」


助けなんて。呼ばないつもりだったのに。
思考回路を捨て去る前に、頭の奥を掠った。
誰かの声がした。
いつかの幻のような、甘い、誰かの声が。


「んぁっ、ゆかちゃ、、」


だけど声の元を探す余地もなく。今を嘆いた。




「…のっち?」


涙を浮かべた目に映るゆかちゃんの顔は、目眩がするほど、嬉しそうに笑ってた。それは、嘲笑う、ともとれるような、のっちの好きなゆかちゃんだった。


「んはぁ…ゆかちゃぁ、」
「あんたなにしとるん?」
「ゆかちゃ、」
「ん?なんよ?」


ソコに沈めた指先を抜いて、ゆかちゃんに差し出すと「もっと見せて?」って笑う。
だけど、だけど、


「ゆかちゃ、おねが、ぃ…」
「うん?」
「…ゆかちゃんがいいよ」


指先を抜いてソコを差し出すと、「よくできました」って笑う。


「ゆかちゃん、おねがい、」
「ん。」
「…もっ、と、、つよ、く…」


強く抱きしめて。強く突き上げて。
痛み伴う程強く。




「も、、イカせ、て…」


のっちの望む終わりを。
ゆかちゃんの指先で。




END





最終更新:2010年11月07日 03:09