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「すまん、樫野。大本頼んだ。」

生徒会でHR前に呼び出されくたくたになって戻ってきたらこの一言。
確かに席がぽっかりと空いている。どうやら授業をサボっているらしい。

でもなんで今戻ったばかりのあたしが頼まれるんよ。学級委員とか、他にもおるじゃろ。

疲れもあって内心穏やかではないものの仕方なく笑顔で返事をしてまた教室を出る。
辛うじて笑顔を作れたのはのっちがなんでいないのかどこにいるのかだいたい予想がつくから。

もし予想が当たってたらあたしもサボろうかな。
代わりに外れたら意地でもみつけだして連れ戻す。
普段真面目なあたしのちょっとした賭け。たまにはいいよね。

遊び心に乗せられて少し気分も軽くなる。
相手はのっちだしたぶん予想を間違えてはいないだろう。
階段を一段飛ばしで上っていく。

上りきった先、暗がりにある扉。ちょっと錆びた重いノブを回して開ける。




「やーっぱりここにおった。」
「なんでかっしぃってうわぁ!」
強い風が吹き抜けてあたしとのっちを扇ぐ。



開かずの扉と怖れられる屋上の扉が開かないのはどうやら数年前に誰かが鍵を無くしたからで
あたしがその鍵をたまたま見つけてしまったというのは三人だけの秘密。
マスターキーもあるけど原則立ち入り禁止だから誰か来るはずもなく
すっかりあたしたちの秘密の場所と化している。



「授業サボっていけないんだー。」
「か、かっしーだって…!」
「ゆかは元々一限目は出れん予定じゃったけぇ変わらんよ」
「そうじゃけど仮にも生徒会の副会長さんがどうかと思うんよ?」
責めているはずののっちの目が泳ぐ。後ろで組んでる手もそわそわ。
わかりやすい子じゃね。
さて、一問目は大正解の樫野選手二問目は果たして…?


脇をスルリと抜ける。
のっちのあっ!て顔、抜けた先に見えたのは青い空の下弾ける太陽。
「あやちゃんかわいいねぇ。」
のっちの顔が真っ赤に染まる。
きっと今のあたしは意地悪な顔してる。
二問目も見事正解!…なので少し遊んで帰ります。山本先生ごめんなさい。


「でもいくらなんでも盗み見なんてちょっといかんじゃろ。しかもプールだし。」
「だって…さああ…」
「見たいなら誘えばいいのに。それともスクール水着が見たいとかなん?」
「ち、違うっ!誘うのはハードル高い…」
「でももうすぐ夏休みじゃろ。はようゆわんとあやちゃんの予定いっぱいになっちゃうよ」
「う…」
「ゆかはもう夏祭り行こうねって誘っとるけどね。」
のっちが聞いてないよ!って顔になった。
追い討ちに耐えきれない眉はだんだん垂れていく。情けない顔…。
「のっちもちゃんと誘う予定じゃけ、そんな顔せんで。」
少しのフォローに口角が上がる。嬉しくてたまらないって顔。
「…ま、それは置いとくとして。
初デートがプールってのは確かちょっとハードル高いかもしれんね、のっちだと。」
初デート、単語だけなのにまた動揺。
頭の中でシュミレーションしてるのか青い顔…。あ、にやついてる。成功したのかな?


あやちゃんの話のときののっちは幸せそうだったり悲しそうだったり怒ったかと思えば喜んだりの七面相。

可愛らしい整った容姿とクール(ただの人見知りなんじゃけど)でいて男らしい態度のギャップから
男女問わずの人気者、学園のアイドルで王子様。
そんな彼女の大きいようなちっぽけな秘密。
関心事の半分以上はあやちゃんのこと。
残り半分は音楽とかダンスとか…あたしもちょっとはあるのかなぁ。

これ、知ってる人は何人くらいいるんだろう?
この学校には一握り、下手したらあたしだけかも。

今は切なさを含んだ目で太陽に視線を送る。子犬みたいな無垢で綺麗な横顔。
こんな顔知られちゃったらまた騒がれるんだろうな。
でもそんなこと、素直に口にするのはやだからまた嫌味をひとつ。
「あやちゃんじゃなかったらもっと簡単なのにね」
「ん?」
「学園の王子様からのお誘いだよ?
それにあやちゃんじゃなかったらゆかも協力してあげられるし。」
「あやちゃんじゃなかったら、かぁ。」

考えこんで無口になるのっち。
こんなときはだいたい納得いくまでだんまり。だから視線を落とす。


あ〜ちゃんは太陽、のっちにしてはバチンとハマる言い得た表現。
カンカン照りの太陽の下でも負けないくらいの輝き。眩しすぎて目を細める。
熱中症には注意せんとのっちみたいになっちゃうけぇね。

あやちゃんが太陽なら、のっちは地球かな。
太陽の光があるから持ったものが最大限に活かされる。青くて綺麗で緑豊かな地球。

あやちゃんが太陽、のっちが地球…ならあたしは月?
太陽の光を受けてやっと輝ける。地球の周りにいるからそれを認識される。とても幸運な星。
まぁ遠くから眺める分には幻想的でも近寄ると殺風景で荒涼としてるんだけど。

あ、いけない。またちょっと自虐的になってしまった。
あやちゃんが聞いたら怒りそう。でも謙遜でもなんでもなくて正直な気持ちなんだけど。

あやちゃんとのっち。
何もしてなくても目がいってしまう二人と比べたら
あたしなんて風が吹いたら飛ばされてしまうくらい小さな存在。
自分でもなんで三人組として周りに認識されてるのか
二人と仲が良いのか、たまに不思議になる。
ほんとつまらなくてくだらない…

「ねー。」
深く沈む思考を掬い上げたのはのっちの言葉。
「かっしーはのっちのこと好き?」
「うーん。ま、人並みには好き、かもね」
あくまでもラブではない。
けど、こういうのってなんだか恥ずかしい。急に何きくんよ、もうっ。

「のっちはあ〜ちゃんとおんなじくらいかっしーのこと好きだよ」
「え?」
さっきまで何を見てるのか分からないくらい遠くを見てた目がいつの間にかこっちを向いてる。

「なにゆーとるんよ。冗談でもそんなこと言ったらいけんよ」
舌がもつれそうで上手く言えないのはきっと太陽にやられて喉がからからなせい。
「冗談じゃ、ないよ。」
こっちを見つめたまま、腕を掴む。
力が強くてちょっと痛いけどそんなの気にならないくらい、こっちを見る目が痛い。
視線が刺さるってこういうことをいうのかな。
相手はあののっち。なのに妙にドキドキする。
学園の王子様なんて馬鹿にしてたけど案外あなどれない、かも。

「目、閉じて」
普段なら笑い飛ばすような言葉にも魔法がかかったみたい。まぶたが自然に下りる。


「…ちめたぃ!」
「あはは、かっしーかわいー!」
口につけられたのは冷え冷えのジュース。て、どこにそんなん持ってたんよ!
おかしくて堪らないって顔してる。あの、のっちにしてやられたのが悔しい。
「…いじわる。」
そんな一言でのっちは簡単に真顔になる。
「ごめんごめん。でもこれ、かっしーの真似なんよ」
「…どういうことよ?」
「知らんの?男子の間では樫野は小悪魔って有名なんだって。」
「えぇ?」
「近づき過ぎるとヤバいんだって。その気にさせられて魂を吸い取られるとか。
なんでも一部先生や女子の間でも被害があったとかって話もある。
言われてみればそうかもしれんね。」
「なにそれ。超勝手」
その気もなにもあたしはなんも意図してない。
「まぁのっちも聞いただけだから詳しくはしらんの…
っとぉそうじゃなくて!」
「ん?」
「えーと、まあつまり、のっちだってかっ…ゆかちゃんのことすし…好きだし、さ
そんな自信ないような悲しそうな顔しないで、ね?」

「…あやちゃんに好きゆうときはもっとかっこよくしぃよ。あと、遠回りし過ぎ!」
優しすぎる目と知らない間に心を見透かすのが反則すぎてまた憎まれ口のダメ出し。
「な!人が励ましてるのにぃ〜」
口ではそう言ってるけどあたしがいつもの調子で嬉しそう。

でも、のっちの手の平の上、かぁ…。
「のっちなんてしらにゃい!夏祭りはあやちゃんと二人で行くから!」

やっぱり悔しいからそう言って駆け出した。
「え、そんなぁ!待ってよ!」
後を追ってくるのっち。きっとすぐに追いつかれる。


でも別に競争はどうでもいいんだ。

さっき起こった一瞬のときめき、気づかないふりしたいだけだから。
きっとこの甘い痛みは急に走り出したせい。





明日あやちゃんをプールに誘ってみよう。
三人になっちゃうけどそれでもいいよね?

これでおあいこだよ、のっち。


おわり






最終更新:2008年10月13日 07:20