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−N-side

今日のあ〜ちゃんはいつもより積極的だ。
仰向けに寝た私の上に乗っかるようにすると、真剣な目でキスをしてきた。

薄暗い中でカーテンから漏れる光がかすかにあ〜ちゃんの目を照らす。
潤ませてキラキラしたかわいい目に胸をしめつけられる。
いつもと立場が逆だからなんか照れくさくいのに、目をそらせない。

「…すき」
だんだん近づいてきて。小さな唇が動く。
耳にかけた髪がすこし揺れて、私の頬をなでていく。

なんだろう。
普段、アホの子とかほんまにヘタレとか言ってきたりさ。
ちゅーしてって言ったら、ばかっ!って頭叩いてきたりさ。
きゃーきゃー笑い転げて目をまんまるにしてる顔とかさ。
いろんなあ〜ちゃんを知ってるけど。

今は目を潤ませて、私のことを好きで仕方ないって目をしてる。
まっすぐな目が閉じたと思ったら、柔らかい唇が触れた。
私もそれを合図に目を閉じる。視界が奪われて感覚だけの世界になる。

あ〜ちゃんがくれるキスは、ちゅって音のするライトなもんなんだけど。

今日は違う。
あ〜ちゃんの唇から好きだって気持ちが伝わってくる。
たどたどしく触れ合う唇がまだ幼さを感じさせて。

でもしだいに、乾いた感触が湿ったものに変わってくるのがわかる。


あ。舌が入ってきた。やわらかい感触が口の中いっぱいに広がる。
おそるおそる私の中で動いていく。

あ〜ちゃん、そんなにこわがらなくてもいいよ。


「…のっち?」
あ〜ちゃんが顔を上げて、小さな声で聞いてくる。

「なんか…へん?」
やわらかくて高い声と、すこしいじけたような、困った顔。

ああそうか。私が何も反応しなかったからか。
自分から舌を入れるなんて、はじめてだもんね。
のっちも最初のときは緊張したもん。。

かわいいなあ。
くるっと身体をひっくり返して、押し倒したいよ。まじで。
ぎゅっと抱きしめて濃厚なキスでお返ししたい。

でも今はさ。
あ〜ちゃんが自分からしようとしてくれることを、さえぎらずに受け止めたい。

「ぜんぜん。めっちゃうれしいよ。きもちいい」
投げ出しっ放しだった手をあ〜ちゃんの頭に回して、髪をなでた。
前髪とおでこの間に右手を入れて、頬を触る。


「ほんとに?」
「うん」

安心した顔をして、あ〜ちゃんは微笑んだ。
そういう健気なあ〜ちゃんが好きだから、多分私は離れられないんだ。


もうためらいなどなく私の頭を両腕で抱えながら迫ってくる唇。
漏れる息が熱くって、思いが伝わってくる。

あ〜ちゃんからこんなに伝わってくるのは初めてで。
遠慮とか戸惑いのなくなったその動きに、
いつもはする側だからかな、なんだか不思議な感覚を覚える。


…あ〜ちゃん、のっちは初めて知ったよ。

自分が好きで仕方ない相手に、これほどまでにストレートに伝えられるのは、
こんなにうれしくてこんなに気持ちいいってこと。

好きとか愛してるとかだけじゃなくてさ。
こんなにまで求めてくれてありがとうって、心から思うものなんだね。


−A-side

自分でも、自分じゃないみたいに、頭の中がのっちでいっぱい。
食べ終わった後、片付けてるところまでは普通にしてたのに。

後ろから抱きかかえられて手を重ねられたとき、全身が熱くなった。
不意な着信でさえ、互いのそれを止めることはできなかった。


…それで気がついたら今、私はのっちの体に覆いかぶさってる。

たぶんお互いに、抱き合いたくてうずうずしてた。
それを乗り越えて体が重なったとき。
あったかい体温は、自分でも信じられないくらいの衝動と熱に変わった。


のっちがいつもしてくれるように、唇を吸う。
のっちは目をくるくるさせてひとしきり驚いてみせて、
それからやさしい目をしてくれた。

こんなの初めてだから、どうしていいのかわからないけど。
その目に安心して、何をしてもいいんだよって言ってもらってる気がした。


一人で待ってたこと、ほんとは帰りたくなんかなかったこと。
恥ずかしいくらいにこんなにも、好きで仕方がないこと。

その思いに突き動かされて、私の唇はのっちを求めて勝手に動き始める。
たくさんの器官で成り立ってる体の、たった一部分が触れ合ってるだけなのに。
そのやわらかで湿った感触は、頭の芯まで支配してしまう。


好きで好きでしょうがないよ。

そう思いながら動く舌を包み込んでくるのっちの唇は、
私もだよって言ってくれてる気がする。

それだけであまりにもしあわせなのに、
もっともっとって求めてしまう私は、ただの欲張りなのかな。


−N-side

すっかりためらいのなくなったあ〜ちゃんは、いつもと違うかんじ。
今すぐ飛びつきたい気持ちをぐっとこらえながら。
小さな唇がまた近づいてくるのを、待ちわびる。

ふと視線を横に向けると、姿見が目に入った。
暗くてよく見えない。
でも薄暗い部屋の中で重なる二つの体が映ってるのがわかる。

よつんばいみたいな格好で私の上で乗っかりながら、
髪を片手でかきあげて耳にかける仕草が、大人っぽくてどきどきする。
かわいい耳が見えて、顎のゆるいラインがあらわになる。

…うわあ。自分でも顔に血が上ってくのがわかる。
いつものかわいらしくて天使みたいなあ〜ちゃんが、
こんな姿になってるなんて。。


「…のっち、どこ見とん」
耳に唇を押し当てて。やわらかい声で耳元でささやく。
長い長いキスの間の休憩みたいだ。

「ん…鏡みとった」
そう言って、もう一度視線を姿見に移す。
その視線をあ〜ちゃんが顔を向けて追ってく。
視線が顔ごとこちらに戻ってくるまでの間がスローモーションみたい。

「もう…変態じゃねー!」
くしゃっと笑って。
ばかばかって、肩を叩いてくる。

不意に白い首筋が見えて、胸が揺れる。
自然と胸元に目がいって。さっきの光景が頭の中で蘇って。


…ああ。和むはずなのに。もうだめだ。

あ〜ちゃんの気持ちが伝わってきて感動したり。
いつもと違うなんてどきどきしたり。
そんなもんじゃない。もっと力強くてもっと支配的な感情が一気に吹き出す。

「だめだ。」
「もう、我慢できない…!」


あんなに健気に愛情を伝えてくれたキスをさえぎって。
頭が真っ白の私は、あ〜ちゃんの右肩をぐっとつかんで、彼女を押し倒した。

欲情するって、こういうことを言うんだろうか。


−A-side

休憩みたいに和んでたはずなのに、体をひっくり返されて、のっちが腕をつかんできた。
あまりに突然でびっくりして、どきどきが止まらない。
おそるおそる目を開けてみたら、いつになく真剣な目ののっちがいる。

「ごめん…でももー我慢できん…」
普段のプラスチックみたいな高めの声じゃなくて、
低くて、のっちの体の奥から出てる声みたいに聞こえる。

来る、と思うよりももっと早いスピードで、体を起こされてぎゅっとされる。
さっきまでより体が密着して、のっちの心臓のどきどきが胸に伝わる。
だからたぶん、私のどきどきものっちに伝わってるんだ…。


…あっ。
座ったまま抱き合ったかっこうで、するするっと脱がされてしまう。
のっちはいつもこうやって、素早く脱がせてくる。

腕を胸の前で交差させて、シャツが顔を通り過ぎる間はいつも、
恥ずかしさと高揚感でいっぱいになる。
でものっちはすぐにまた抱きしめてくれる。
恥ずかしさを感じさせないようにしてくれるあたりが、やっぱりやさしい。


「のっちのも、脱がせて」
「…!」

こんなこと言われるのは初めてで。
そういえば、抱かれるときにのっちが服を全部脱ぐことってなかった気がする。

言われるがままに、おずおずとTシャツの裾をつかんで、ぐいっと腕を引き上げる。
引き締まった体には少し不似合いなくらいの女の子らしい胸が見えた。

シャツで見えなくなった顔が、また目の前に出てくる。
照れ笑いして下を向いてしまうのっちが、とてもいとしい。
のっちがそうしてくれたようにぎゅっと抱きしめようとするより先に、
力強い腕に引き寄せられた。

肩に回された腕とかぴたっと合わさった胸とか。
肌が吸い付いてでもさらさらっとして気持ちがいい。

素肌と素肌が直に触れ合うのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
思わずのっちの背中に手をまわして、その感触をもっと感じようとしてしまう。

これだけでこんなに気持ちいいのに、全部脱いで抱き合ったら、
どんなふうになってしまうんだろう。


無心に私の肌を味わってるのっちの腕に身を預けながら。
もっと触れ合いたいって思う私は、やっぱりもう引き返せないくらいに欲張りになっていた。


(つづく)







最終更新:2008年10月13日 07:27